飲食店の開業を志す方にとって最初の関門は開業資金の確保です。
これまで飲食店で開業を目指す何百人も方と接してきました。自己資金はあると言い切る人、借入をすると決めている人、物件は見てまわっているもののどちらとも決めていない人、十人十色です。そんな皆さんに同じ質問を毎回しています。
「開業の時期は決まっていますか?」
ここをハッキリとお応えになる方は、お金をどの様に調達するかを悩むのではなく、その時期に開業する為になにをすべきかを悩むことが多いように思います。
もし、自己資金か借入かで迷っている方はご自身に問いかけてみて下さい。その答えを持って今回の記事をお読み頂ければより一層理解が深まると思います。
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開業資金のシミュレーションは必ずやりましょう
一口に飲食店の開業といっても規模や業種、借りる物件の状態により資金需要は大きく異なります。ひとまず自己資金と借入金での開業比較をしてみることにします。
前提条件として以下をもとに進めます。
手 持 資 金: 200万円・・・現時点でこの額のお金がある
出店総費用: 500万円・・・物件取得費、運転資金などを含む
自己資金で開業の場合
開業するのに必要な資金は、手持資金200万円なので300万円ほど足りないことになります。もしこの足りない300万円を今日からコツコツ貯めるとしたらどうなるでしょうか。
月々5万円の貯金とボーナス時に10万円×年2回とした場合、年間80万円となります。この計算で行けば「3年9ヶ月」の年月がかかります。
借入金で開業の場合
今度は、同じく出店総費用500万円にたりない300万円を日本政策金融公庫などの金融機関から借り入れた場合を考えてみます。
金融公庫の創業融資を利用した場合、借入金は最長で72ヶ月の分割払いが可能です。また、最初の1年間は金利のみ(元本の支払いは2年目から)を選択することができます。
この場合、300万円を60回分割で返済するとなると、月々の返済額は5万円となります。金利を年3%で 借り入れたとすれば、当初の金利は月々で7,500円の計算となります。最初の1年間は金利分だけの月々7,500円の返済、2年目から元本を含めた月々57,500円の返済となります。(もっとも利息分は月を追うごとに徐々に減って行きます)
この2つを比べてみます
自己資金派がせっせと月々5万円(ボーナス分を入れると月々66,000円)を貯めている間に、 借入派はほぼ同額の支払いをしながら実際にお店を経営することになります。
貯蓄にせよ借り入れにせよ手元から離れて行くお金の額が同額だとすれば、自己資金にこだわり貯蓄を続けるのは本来の目的とは離れているようにも思えます。この話をすると決まって次のような答えが返ってきます。
「もし飲食店が上手くいかなかった時に借金が無い方がいいので自己資金がたまってから始めます」
ここでよく考えて頂きたいのは、やる前から失敗することを考えるのではなく、
- 自分がやりたい業態はなにか
- 価格やボリュームが受け入れられるか
- 開業する場所はどこか
など綿密なリサーチとシミュレーションをすることがスタートラインであって、事業計画を経てこれなら大丈夫となれば一刻も早く開業すべきです。
もちろん始めてみれば見込みと違う部分は数多くあるでしょう。それを毎日の様に改善して、事業をやりながら学んだことを売上向上に生かすことが飲食店を成功させる秘訣なのです。
だからこそ、開業の時期が決まったのなら足りない資金の工面をどうするのか考えるだけで後は実行あるのみだと考えます。
まだまだ低金利の令和で、銀行に預金して増えた利息も1回のATM時間外利用料で1年分がなくなってしまうような時代です。
お金を借りるということは取りもなおさず時間を買うということなのです。なにか事を始めるのに遅すぎるということはありませんが、始めるなら善は急げです。
コロナの時代飲食店開業のトレンドは?
誰しもお金を借りることへの不安や抵抗はあるものです。長らく続いた低金利時代は、コロナ禍の終焉、アベノミクス終焉とともに上昇の方向に向かうのですが、ここ3、4年で一気に上昇するとも考えづらいものです。
だとすると開業資金は、変動金利よりも先々を見越して固定金利で借り入れた方が今の時期は得策だと考えます。
ひるがえって、自己資金なのか借入金なのかと迷った場合、先程のシミュレーションをもとに考えれば、今なら3%程で借りられるお金が3年9ヶ月後には数%上昇しているかもしれません。そうなれば月々の返済額は増えて行きます。
シミュレーションの例でいえば貯蓄額と返済額が月々であまり変わらないというのであれば、融資を受ける決断が今の時代に合っていると思います。
~まとめ~
今回の開業資金についての考察は、住まいの為に賃貸で借りて月々家賃を払うのか、同じ金額を購入してローンで支払うのかという話と似ています。
こちらはローンの額が大きいので最終的な比較となると一概にどちらと言えませんが、利益を生まない住宅と違い、飲食店を開業するということで利益が生まれます。
その利益のなかから返済をするということですから住宅ローンの負担感はまったく違ったものになります。
最後にもう一つ。
早期に閉店する飲食店の大半が固定客(リピーター)がつく前に運転資金が枯渇しています。もしそうだとすれば、あと半年分の運転資金があったなら確実に営業を続けていたことになります。
開業資金の考え方の中に、開業後の運転資金を多めに見積もっておくことが長く飲食店を続ける最大の秘訣なのです。