一般的に飲食店や物販の賃貸物件は(立地や賃料設定にもよりますが)募集期間が長くなる傾向にあります。
分かりやすい例では全国にチェーン店を出すような飲食店が検討するエリアは例外として総じて苦戦が伝えられています。
この一番の理由として上るのが原状回復工事(賃貸借契約開始時の状態に戻す工事)後のスケルトン(内装、設備をすべて取り払った状態)での引き渡し状態にあります。
今回は、苦戦が予想されるにもかかわらず原状回復されてゆく店舗の実態と少しでも空室募集期間を短くする工夫をお話したいと思います。
今回は大家さんを対象にした内容ですが、これから飲食店などで店舗物件を借りようとお考えの方にも是非知っておいてもらいたい内容です。
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飲食店の賃貸借契約書を確認する
飲食店などの賃貸物件では賃貸借契約書に原状回復条項が必ず入っていると思います。これは民法598条で定める、「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することが出来る」に従い挿入されているごく一般的な条項です。
ところがほとんどの大家さん、管理会社は賃貸借契約を結ぶ際、原状回復の詳細を規定しないまま契約を締結しています。結果多くの物件で解約の際にトラブルになっています。
実務的な話をすると、本来財産区分をハッキリさせることが重要で、天井材は誰の資産なのか、壁の仕上げ板は誰の資産なのか、床はコンクリート仕上げ、ガス・水道はメーターのところまですべてを撤去するだとか明文化されている必要があります。
大家さんの場合、契約書の約定通りに工事を行うことのメリットとデメリットを手持ちの不動産が持つ「物件力」と相談して考えないと安定した収益は得られなくなります。
次にそのメリット、デメリットについて考えます。
飲食店の原状回復工事のメリット
貸した状態に戻すメリットは、「リセット」出来ることにあります。
一般的に飲食店舗をスケルトンにして返還する賃借人は、最初にスケルトンで借りてご自身で内装を作りつけた方です。ただ、新築から造り上げたからと言ってすべてが上手くいっているとは限りません。
例えば、厨房にグリストラップを付けなかった為に排水管が詰りやすいことになり、最悪では排水枡から悪臭が出るようになります。
ダクトの吹き出す高さや向きが良くないせいで近隣から苦情が出ることもあります。くわえて、シロッコファンの防音(制震)工事を施していない為に周辺の上層階に深夜迷惑をかけることもあります。それだけではありません。長くお店を続けてきてブレーカーや配線が老朽化し漏電や火災につながる危険性すらあります。
これらの不具合を一度最初の状態にすることで、一気に解決をする考え方が原状回復です。臭いや火を使うことが心配な大家さんはこの時点で飲食店ではなく物販としての募集に切り替えることもできます。周辺環境に応じて貸す相手を選ぶことが出来るという訳です。
原状回復工事のデメリット
募集時に借手の業種が広がる原状回復後の店舗に対し、一方で次に入居される方の負担が大きくなるのも事実です。
物販であっても床、壁、天井に電気、空調設備など一通りの工事が必要となってきます。ましてや飲食店となると相当なイニシャルコストがかかります。
潤沢な退職金で作る趣味の店を除けば対象物件としては敬遠されがちです。つまり、次のテナントが見つかるまでの期間が長くなるというデメリットがあるのです。
となれば、早期契約の為に募集賃料の値引きや家賃をある一定期間免除するフリーレント期間を付けることになります。
もし、家賃を生活費の一部に見込んでいる大家さんであれば苦しい期間が長く続く可能性が出てきます。
飲食店舗なら居抜きの状態を活用する
昨今の空室営業上必ずしもスケルトンに戻すことがいい訳ではないことはお分かり頂けたと思います。ではどこで判断をすればよいのかということになります。
例えば、解約を申し出られたテナントさんと次のテナントも同じ業態でもいいというのであれば居抜きの状態、つまり原状回復工事をしないで退去頂くのが良いと思います。
だからと言って無償でということではありません。契約書に原状回復義務がうたわれていますので本来その工事代金を借主は負担する義務があります。
仮にこの工事代を100としたならば、「合意解約書面」でその80%か70%に抑えることで内装、設備、什器備品などを放棄して置いて行ってもらうという方法があります。解約をする借手にとっても金銭的に助かりますし、大家さんにとっても次のテナントを見つけやすくするメリットがあります。
大家さんは受け取った原状回復相当分のお金を上手に活用して建物修繕や店舗内の不具合解消に役立てることが可能となります。次に具体例をあげてその活用法を考えます。
飲食店居抜き譲渡のメリット
① 原状回復工事を免除できる
原状回復工事は、小規模の飲食店でも原状回復工事を行えば坪当たり7万円~10万円ほど費用がかかります。ダクトが屋上まで延びていたり厨房の防水層を掘削工事で壊す必要がある場合など、時間も人工も廃棄も値段がかさみます。その場合総額で10坪前後でも150万円前後の支出は覚悟する必要があります。
これに対し居抜き譲渡のメリットの一つとして、賃借人が飲食店閉店時に通常発生する原状回復工事費用を負担せずに、そのまま明け渡すことができることが特徴です。
原状回復工事と明け渡しにかかる費用とトラブルについてはこちらで詳しく解説しています。
② 賃借人の余分な家賃支払いををへらす
居抜きで譲渡する場合には、次のオーナーに引き渡す直前まで営業することが可能なため、通常なら負担しなければならない解約予告期間や解体工事期間の賃料を払う必要がありません。家主にとっても、継続して賃料収入を得られるというメリットがあります。
③ 造作譲渡による売却金の獲得
居抜き譲渡による最大のメリットは、造作譲渡による売却金の獲得です。
使用可能な厨房施設や調理器具等、内装付属品を高く売却することで、次の出店の資金にもできます。
あなたのお店を居抜きで譲渡する際、いくらくらいの相場になるのか?
居抜き物件 譲渡相場の調べ方についてはこちらで詳しく解説しています。
飲食店居抜き物件の活用例(大家さん)
前テナントが原状回復工事費として支払ったお金はどのようにすれば生きてくるでしょうか。
- 排水管洗浄
- 給湯機の交換
- エアコンの内部洗浄および冷媒の補充
- 厨房、客室の床洗浄
- 貸室内外のゴミ、不要物撤去
最低でもこの5項目は次の借手の為に支出したいお金です。それ以外でも必要に応じてグリストラップの清掃や扉の交換、シャッターの調整などに支出するといいでしょう。あとは、物件を紹介してくれる仲介会社や管理会社に向けてお金を掛けた部分をアピールすることで、次の借手は安心して応募してくることでしょう。
~まとめ~
ほとんどの大家さんには地元で長いお付き合いの不動産会社がついているはずです。一般的に業界では彼らのことを「元付業者」と呼んでいます。彼らは大家さんの目となり腕となって大事な賃貸物件の管理を担うのが役目です。
とはいえ飲食店舗物件に関しては心配なことがあります。普段扱う件数がすくないことや借手を探すのに苦労をする(時間がかかる)ことが少なくありません。それ故大家さんに対して新しい提案をためらうことがあるようです。
その理由に、物件が決まらない責任を問われることを恐れるからです。その結果、あまり扱ったことのない飲食店の居抜き物件ではなく、契約書通り原状回復を選択する傾向にあります。
はたしてその役割で良いのかと疑問を持ちますが、大家さん側も新しいものではなく今まで通りで結構ですという方が多いのもまた事実です。変わりゆくトレンドを大家さんにお伝えすることは不動産会社の使命だと日々考えております。