
更新日:2026年10月2日
初めて自分のお店を開く。気に入った物件が見つかれば、内装や厨房設備、メニューづくりと、考えることはたくさんあります。
そのとき、賃貸借契約書の「解約」や「原状回復」の項目まで、きちんと読んでいるでしょうか。
「これから開店するのに、閉店の話なんて縁起でもない」
そう思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、店舗を返すときの条件は、借りるときに確認しておく必要があります。解約の段階で初めて読み直し、「こんなにお金がかかるとは知らなかった」と気づいても、希望する条件に変えられるとは限りません。
2年後に閉店する場合も、10年、20年と営業を続けた後に退去する場合も、最初の契約確認が将来の負担を左右します。
この記事では、物件を契約する前に押さえたいポイントを、具体的な費用例とともに紹介します。
長く続けるつもりでも、退去条件は確認しておこう
飲食店の経営では、開業後の早い時期に店を閉めるケースもあります。
シンクロ・フードが2014年に公表した調査では、2008~2013年に「居抜き情報.COM」に問い合わせが寄せられた閉店店舗6,494件のうち、営業年数が2年以内の店舗は49.7%でした。これは開業した飲食店全体の半数が2年以内に閉店するという意味ではありませんが、開業間もない時期の閉店にも備えておきたいことがわかります。調査出典
また、店舗を解約する理由は経営不振だけではありません。繁盛して手狭になったための移転、体調や家族の事情、引退など、長く続けたお店にも退去の機会は訪れます。
だからこそ、物件選びでは「いくらで借りられるか」と一緒に、「どのような条件で返すのか」「そのとき、いくら必要なのか」を確認してください。
契約前に確認したい、3つのお金の話
1.解約予告期間――営業を終えても家賃が続くことがある
解約予告期間とは、契約を終了する何か月前までに、貸主へ解約を通知する必要があるかという取り決めです。
たとえば、月額賃料20万円、解約予告期間8か月という契約なら、解約を申し入れてから契約終了までの賃料は160万円になります。すぐに営業をやめても、契約に基づく賃料負担が続く場合があります。
契約前には、次の点を確認しましょう。
- 契約期間の途中で解約できるか
- 何か月前までに、どの方法で通知する必要があるか
- 予告期間分の賃料とは別に、違約金が発生するか
- 次の借主が決まった場合、賃料負担はいつまで続くか
居抜きで次の方に引き継ぐ場合も、賃料負担が自動的になくなると考えず、貸主との合意内容を確認することが大切です。
2.原状回復――居抜きで借りても、居抜きで返せるとは限らない
原状回復で特に確認したいのは、「どこまで撤去し、どの状態にして返すのか」です。
厨房やカウンターが残っている居抜き物件を借りたからといって、そのまま返せるとは限りません。契約によっては、以前の店舗から引き継いだ内装や設備も含め、撤去を求められる場合があります。
確認する対象は、床・壁・天井だけではありません。厨房設備、排気ダクト、給排水設備、看板なども含めて、撤去や補修の範囲を具体的にしておきましょう。
通常損耗や経年変化は原則として原状回復義務の対象外ですが、有効な特約によって借主の負担となる場合があります。事業用の物件でも、契約内容と入居時の状態を確認することが欠かせません。
あわせて、工事業者を自分で選べるのか、貸主や管理会社の指定業者に依頼する必要があるのかも確認してください。
3.敷金・保証金の償却――預けたお金が全額戻るとは限らない
契約書に「敷金償却」「保証金償却」「敷引き」などの記載がある場合は、その金額と条件を確認しましょう。
たとえば、月額賃料20万円で、償却が賃料3か月分なら60万円です。
さらに、原状回復費用や未払い賃料などが別途差し引かれる場合もあります。償却に何が含まれるのか、原状回復費用とは別の負担なのかを確認しておく必要があります。
敷金や保証金は、退去したらそのまま戻ってくるお金とは限りません。
家賃20万円のお店でも、退去に370万円かかる例
次の条件で、解約時の負担を考えてみましょう。
| 項目 | 想定条件 | 負担額 |
|---|---|---|
| 解約予告期間中の賃料 | 月額20万円×8か月 | 160万円 |
| 原状回復工事 | 工事費を150万円と仮定 | 150万円 |
| 敷金・保証金の償却 | 賃料3か月分 | 60万円 |
| 合計 | 370万円 |
これは条件を置いた計算例で、工事費の相場や負担額の上限を示すものではありません。実際の金額は、契約内容、店舗の広さ、設備、工事範囲などによって変わります。
また、償却分は預けた敷金・保証金から差し引かれるため、370万円すべてが新たな現金支出になるとは限りません。それでも、戻ってこないお金を含め、これだけの負担が生じる可能性があります。
開業資金を考えるときには、退去に必要なお金にも目を向けておきましょう。
工事を終えた後に、追加費用を求められることも
原状回復工事を済ませても、貸主側との認識が違えば追加費用の問題が残ります。
実際の事例では、カウンターを固定していたボルトの処理について引き渡し時に指摘を受け、追加の撤去費用として約20万円が敷金から差し引かれました。
こうした行き違いを防ぐためには、工事前に撤去範囲と仕上がりを確認し、図面や写真、書面で共有することが大切です。引き渡しの際には、工事を担当した業者にも立ち会ってもらいましょう。
契約前の段階でも、「誰が工事内容を確認するのか」「どの状態なら引き渡し完了になるのか」を聞いておくと、退去までの流れが見えてきます。
敷金・保証金は「いつ返ってくるか」も確認する
戻る金額だけでなく、返還時期も資金計画に関わります。
契約書には、明け渡しや費用精算の後、いつ返還するのかが定められている場合があります。退去後すぐに戻ると思い込み、移転先の契約金や借入金の返済に充てる予定を立てると、資金繰りに影響することもあります。
返還の期限、精算の手順、差し引かれる費用の明細を、契約前に確認しておきましょう。
「大丈夫ですよ」で済ませず、合意を契約に残す
契約書について質問したときに、「実際にはそこまで求めません」「そのときに相談しましょう」と説明されることもあるでしょう。
しかし、担当者が変わることもあれば、解約時に説明の受け取り方が食い違うこともあります。
負担に関わる重要な条件は、口頭の説明だけで済ませず、貸主の合意を得て契約書や覚書に具体的に残してください。居抜きでの引き継ぎを認める条件、撤去しなくてよい設備、次の借主が決まった場合の賃料の扱いなどは、特に明確にしておきたい項目です。
意味がわからない条項や負担の大きい特約があれば、署名・押印の前に確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
~まとめ~ 10年、20年続けるお店のために、最初の契約を大切に
開業時には、売上や集客、日々の経営に意識が向くのは当然です。それでも、店舗を借りる契約には、いつか返すときの約束も含まれています。
長年にわたって営業しても、退去時の負担が自然になくなるわけではありません。最初の契約と、その後の更新や変更で合意した内容が、将来の解約時にも関わってきます。
これから始めるお店と、ご自身の資金を守るために、契約前に「返すときの条件」まで読んでください。
気に入った物件が見つかった時こそ、家賃や立地だけでなく、解約予告、原状回復、敷金・保証金の扱いを確認する重要なタイミングです。
(構成・執筆:著者 / 画像生成・返済試算・ファクトチェック:AI活用)





