梅雨が明ける前後から一気に気温が上昇する昨今、令和6年も例外ではなさそうです。
総務省が発表している令和5年のデータを見ても1年中で7月が熱中症で搬送される人の数が最も多く、全国で9万人を超えています。
都道府県別に熱中症搬送者数を見ると東京都が5,900人を超え一番です。これだけ見るとやはり東京は暑いのかと思いがちですが、人口10万人当たりの比率でみるとなんとトップは鳥取県となり東京は47都道府県中45位となります。
同じ比率で見た上位の県は、2位鹿児島、3位大分、以下熊本、佐賀と九州地方が上位を占めています。意外な結果です。
年々搬送者の数が増える熱中症ですが、人が集まる場所での対策や教育の現場での啓蒙が行き届いているかどうかが数に反映すると言われています。
昨今、気温が35℃を平気で超えるようになった日本。大量の熱量を発生させながら調理をする過酷な環境の厨房で熱中症にかからない為の工夫を考えてみたいと思います。
Contents
厨房はなぜ暑いのか
「何を寝ぼけたことを今更」と思わないでください。
熱のこもる厨房も順序だてて解き明かしていけば暑さを緩和できる糸口が見つかります。
気温上昇のメカニズム(熱量と排気、空調の関係)がある
これから厨房内の温度が上がる仕組みを簡単に解説します。
厨房では火を使いますから「熱量」が発生します。その熱量の大きさに比例して温度は上昇します。
これを取り去るのが「排気」と「空調」です。
単純に言えば、熱せられた空気を厨房の外へ出してしまえば厨房内の温度は上昇しません。(厳密に言えば、人や電気からの熱量、機器からの輻射熱などがありその分は上昇します)
但し、外気が35℃近くある夏場は冷房で厨房内の温度を下げてあげなければ、外に排出しきれなかった熱量が積み重なって結局厨房内の温度は上昇するという悪循環です。
これが温度の上がるメカニズムです。
厨房の温度を上げない対策を考える
対策1 排気する
これから厨房を計画されているなら火の熱量と換気扇の能力は密接な関係にあることをよく理解してください。熱がこもる厨房の原因は、
- 換気扇の能力とバーナーの発熱量のバランスが悪い 換気能力 < バーナー発熱量
- 厨房内で空気の循環が悪く熱をうまく排気する流れが出来ていない
厨房で一番熱量を使うのは中華やラーメンなどの業種です。何店舗も出しているラーメン店の厨房は、スープを煮る寸胴のバーナーの上に1台、麺を茹でる寸胴のところに1台有圧扇(換気扇)がついているものです。
また、その上部はステンレス製のフードで大きく覆われており厨房で火を使う場所すべてをカバーしています。
これは、バーナーから発生した熱量を大きなレンジフード内に一旦滞留させ、大型の有圧扇で一気に外へ吸い出す方式をとっているからです。
もしここで有圧扇の能力が低くレンジフード内に熱量が溜まるスピードの方が勝っていたとすると、熱量はフードからあふれ出し厨房内に溜り始めます。これにより温度は確実に上昇します。
発生する熱量と排気の関係が正常に機能していると仮定して。客席と厨房が隔離されていないような場合、客席で冷やされた空気が厨房内に流れ込み温度を下げる役割をしてくれます。
冷風が流れ込む量が少ないようなら目立たない場所にサーキュレーターなどを設置し、排気を妨げないように風を送り込めば良いのです。
また、屋上までの排気ダクトをたてるような場合は、屋上側にもシロッコファンの様な厨房内の熱量を引き上げるファンを別途設置しないと上手く熱量を排気出来ない可能性があります。
その場合は専門家の計算に従って長さや容量にあったものを選ぶようにしてください。
対策2 そもそも熱を発生させない
対策の1は出た熱量を外に出してしまうという対策でしたが、対策の2はそもそも熱量を出さないことを考えます。
低輻射型ガス厨房機器(ていふくしゃがた)
ガスを燃やすことで発生する熱量を厨房機器内に封じ込め、集中して排気することで効率よく熱量を排気し、厨房内の温度を上昇させないという利点があります。
その性能は以下の通りです。
- つまみの温度が50℃以下
- 機器前面の表面温度が65℃以下
- 側面・後面の機器表面温度が75℃以下
- 使用者に排気・蒸気・温水熱が及ばない構造
通常のガスを使用する厨房機器でありながら上記の様な性能を持つ低輻射型ガス厨房機器は、機種も豊富に出ており、コンロ、オーブン、フライヤー、茹で麺機、蒸し器、中華レンジなどこのタイプで飲食店に必要な厨房機器は全て揃います。詳しく研究なさりたい方は、下記URLを参照願います。
一般財団法人 日本ガス機器検査協会
http://www.jia-page.or.jp/certification/type/kaiteki.html
対策3 厨房内を効率よく冷やすには
火を使えば生まれてくる熱量。これを取り去らない限りいくらクーラーを回しても電気代の無駄となります。
かといって有圧扇も低輻射型ガス厨房機器もお金がかかると思う方が少なからずいらっしゃるでしょう。そのような時は手っ取り早く冷やすに限ります。
但し、家庭用エアコンの様に厨房内の壁上部に設置してしまうと火で暖められた空気を冷やすだけで人が立っているあたりの空気は冷えません。
コストをかけて無駄な設備となります。意外とこの手のエアコンを厨房内によく見かけます。つけたはいいがあまり効かないので電気代を考えると使わなくなったというやつです。
気化式冷風機
移動可能な冷風機で、水の気化熱を利用して厨房内の温度を下げます。置き場所を選ばないので厨房内で調理をする人のすぐ脇に設置することも可能です。機種にもよりますが、厨房内の温度35℃、湿度60%の場合で、30℃ぐらいまで温度を下げて噴き出してくれるようです。
このマイナス5℃の感覚をたとえるなら、夏の日差しの中を歩いて来てビルのエントランスに入った時に涼しいと感じる感覚がマイナス5℃なのです。
事実オフィスビルのエントランスの温度管理は外気マイナス5℃に設定しているところが多いと聞きます。機種も以前に比べ豊富になり価格や大きさも手頃なものが出ています。一度検討してみて下さい。
飲食業に熱中症搬送者が少ない意外な訳は
高温多湿の厳しい環境で調理をなさっている料理人の方が大勢いらっしゃると思います。熱中症の搬送者が多い建設業界に比べ飲食業界のそれは格段に少ないとデータが出ています。
水分をとりやすい環境にいるからだという方もいます。確かに目の前で水が使える環境は少し喉が渇いたと思えば直ぐに補給できる訳ですから危険度は比較的低いのかもしれません。
しかし油断は禁物です。汗で失われるミネラル分を補給し首の後ろや手首の静脈を冷やすグッズなどを利用し体内に熱を溜めない工夫が必要です。
暑い日本の夏を乗り切るための工夫は「換気扇の排気能力」を見定めるところから始まるのかもしれません。
これからお店を始める人も、少ない予算で環境改善を考えている人も是非一度検討してみてはいかがでしょうか。