令和6年の夏は6月の猛暑からスタートしました。いきなりフルで冷房運転を始める飲食店が多かったことと思います。
そのようなおり冷房運転でご苦労されている声をいくつもの飲食店で聞きます。例えば、一部の客席では暑くて、別の客席では寒いとお客様からご指摘を受けることが多いようです。
居酒屋など男性の多い飲食店の温度設定は概ね低めに設定されているためどうしても女性は寒く感じてしまうのですが、飲食店側にその声が届かず結果リピート客を減らしているかもしれません。
一方で、冷房や除湿など切替運転に一工夫したり、こまめなメンテナンスで電気代の削減になることをご存知ない飲食店もあります。
今回は、夏本番を迎えた今の時期にお客様に満足に頂ける効率的な空調と電気代高騰が心配される今節電する方法もあわせて考えて見たいと思います。
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意外と知らない冷房とドライの違いとコストの比較
冷房とドライの違いについてキチンと理解されている方が意外と少ないようです。ドライ=除湿だと言うことは理解しているけど、エアコンの風が途中で出なくなってと言うような声を耳にします。また、消費電力の比較でも冷房よりドライの方が少ないと言う方もいれば、逆に冷房よりドライの方が消費電力は多いという方も同じぐらいいらっしゃいます。
実は、古いタイプのドライと新しいタイプのドライでその機能が異なっているためどちらも正解なのです。
冷房と除湿の違いとコスト比較
冷房は読んで字のごとく空気を冷やし室温を下げることを目的としています。ドライは除湿ですから、店内の空気中に含まれる湿気を取り去ることが目的です。
ところが、ドライには2つのタイプがありそのことが話をややこしくしています。
「弱冷房除湿」と「再熱除湿」
この二つの違いはなにか。まずエアコンがどのようにして除湿をするのかという原理に立ち返って説明します。
冬に湿度が高いと聞いたことがありません。冬の寒い日は乾燥しているものです。逆に温度が高くなることで空気中に含まれる湿度の割合が増すことになります。例えば、30℃を超すような日に湿度が90%も含まれる日が登場し不快指数85%となり暑くてたまらなくなるものです。これが、冬の日の様に温度が下がれば空気中の湿度も下がるという原理を利用しているのがドライ運転なのです。
室内の湿度を含んだ空気をエアコン内に取り込み、熱交換機で一旦冷やすことで湿気を取り去っているのです。ドライ=除湿するだけだとエアコンから出てくる除湿後の空気は冷たい風が出てきます。これを「弱冷房除湿」と言います。
これに対し、冷たい風を出す機能は冷房であることから、除湿後に元の温度に戻して(若干温めてから)風を吹き出す方式がありこれを「再熱除湿」と呼びます。
最新型のエアコンであればどちらも選ぶことが出来ますが、少し前のタイプだと選べないのが一般的です。もし現在使用中のエアコンがどちらのタイプかお知りになりたい場合はメーカーに問い合わせるしか方法がないようです。目安として製造年月日が古いものほど弱冷房除湿、新しいものは再熱除湿の傾向があるようです。この違いが冒頭の消費電力論争を生む元となっています。
ただ除湿をするだけの弱冷房除湿の消費電力は、冷房に比べ電力を消費しません。ところが、再熱除湿は再度加熱する分冷房よりも電力を消費するのです。結果以下の相関関係となります。
消費電力 ・・・ 「弱冷房除湿」<「冷房」<「再加熱除湿」
因みに、冷房を基準とすると、弱冷暖房なら10~15%の節電となり、これに対し再熱除湿だと20%も余分に電力を使うことになります。エアコンの機種によって、ドライとの付き合い方は大きく異なります。
快適な飲食店内をつくる工夫
すぐに手が付けられて、それでいて効果の高い店内温度調整のヒントを4つご紹介いたします。
シーリングファン
南国リゾートのレストランで必ず見かけるものです。天井に取り付けられた大きなプロペラの事です。静かにゆっくりと回っています。このファンを扇風機のように、柔らかな風を送って涼をとるものだとお思いの方は大きな認識違いです。実は思いの他優れものなのです。
夏場、冷房の冷気が足元に溜り、座った状態から立ちあがると温度が2~3℃高く感じたことはありませんか。飲食店では火を使い料理をしますので、天井付近には厨房で熱せられダクトで排気しきれなかった空気が滞留しています。
この温まった空気の塊は冷風をより床面に押し下げる働きをします。これにより客席に座るお客様が適温だと感じたとしても、天井付近に設置されたエアコンは熱せられた空気を吸い込み更に温度を下げようとパワーを出して働きます。
当然冷え過ぎを招き余計な電力を消費するということになります。これを防ぐためにシーリングファンは存在します。
天井近くの熱せられた空気をゆっくりと床面の空気とかくはんさせることで店内の温度を均一化し結果温度を下げる効果があります。仮に冷房の設定温度が28℃の場合、空気のかくはんによる気流効果で体感温度はマイナス2℃ほど低く感じるものです。
サーキュレーター
間仕切りのある複雑な作りの飲食店舗や天井の低い飲食店舗では圧迫感がありシーリングファンの設置には少し抵抗があるでしょう。そのような店舗では小型のサーキュレーターが活躍します。このサーキュレーターと聞いてピンと来ない方は足の無い小型扇風機を想像していただくと分かりやすいかもしれません。
床に置けば冷気をピンポイントで狙った場所に吹き届けてくれますし、真上に向ければ十分なかくはん機能を発揮します。
例えば、客室がL型で奥が座敷になっているような場所やエアコンの風が間仕切りなどで届きにくいテーブル付近の天井に向ければシーリングファンと同様の効果が得られます。
旧来のサーキュレーターですと音がうるさいという欠点がありましたが、最近は静音タイプのものも増えています。
フィルター清掃とフィン清掃
そもそもフィルターが目詰まりを起こしていると効率が落ちる(余計な電気代がかかる)ばかりか、エアコン本体の寿命も縮めかねません。特に入口付近のエアコンフィルターはドアの開け閉めと共に入ってきた埃を吸ってゴミが付着しやすいものです。
月に一度は清掃してください。天井に埋め込まれているタイプでフィルターの清掃方法が分からない場合でも、メーカーのサイトなどに詳しく出ています。
また、油を含んだ空気が天井付近に滞留する関係でどうしても油分やタバコの煙などを吸い込み、空気を冷やす熱交換器付近のフィンが油やヤニで表面が汚れて行きます。この状態を放置すると上手く熱交換が出来ず、いくら機械側の温度設定を下げても冷たい空気は出て来なくなります。
皆さん故障だと考えるのですが、実は内部の洗浄をすることで劇的に冷房効率は回復します。余裕があれば1年に1度は専門業者を入れて内部洗浄をすることをお薦めします。消費電力のロスを考えると電気代上昇局面では決して高い支出ではないといえます。
冷房効率と電気代についての試算
冷房効率は、設定温度が1度上がると10%のコストダウンと言います。もし、家庭用エアコン(1,500W相当)を3台相当のエアコン4,500Wをランニングコストの安い200Vで運転していたと仮定します。1日8時間、月25日の稼働として
3Kw×8時間×25日×@27円14銭 = 16,284円・・・1ケ月の電気代
つまり、冷房期間中設定が「1℃」常にあげられたと仮定すると5月~10月までの半年間で、約12,700円(2,116円×6ヶ月)もの電気代削減となります。さらに、空気のかくはんがなされておらず、フィルターが目詰りしフィンが汚れていたとします。各要素で3℃ほど効率が落ちていると仮定すると、半年で3万8,000円にもなります。もしこれが、100Vで運転していたならば、電気量の単価は36円60銭となりますので更に高くなります。
試算の結果、エアコンの洗浄代が十分まかなえることがわかりました。まだまだ暑さは続きます。今から検討されても遅くはありません。