日本の賃料はほぼ近隣相場で決まります。
周辺にある同様の不動産がいくらで貸し出されているかを参考に、同じぐらいのこれぐらいが妥当だろうという決め方です。
売買の場合は、基準地価や公示地価、不動産評価額といった売買価格の目安を国が毎年発表しています。取引価格がある程度開示されていれば買う方も売る方も極端な数字はつけられません賃貸もまたしかりです。
本来、土地の価値となる売買価格や賃料価格はその土地を利用する人が決めるものなのです。どういうことかと言えば、同じ土地でもお豆腐さんや魚屋さんを始めるのか銀行をやるのか、はたまたパチンコ店を開くのかによりその場所で稼げる収益は随分異なります。
人通りが多いことで物販やサービスカウンター機能を持った金融機関が売り上げる坪当たりの収益は他の業種に比べ非常に高く、他の業種を寄せ付けない程の賃料が払えます。
そのような場所で八百屋さんや肉屋さんが成り立つでしょうか。収益性からみてもっと土地の安い、家賃の安い場所でないと無理です。
実は、皆さんが頭では分かっている日本の賃料が本日のテーマです。場所に惚れてしまい、「あばたもエクボ」状態になる前に冷静にお読みください。
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飲食店立地は最初に場所ありきの間違い
お店の成功を左右するのは、立地が7割、8割の比重を占めていると語るフードコンサルの先生や開業How To本があります。
実はこの表現こそが勘違いを引き起こす一番の原因です。この表現により、飲食店舗を始めようと考えた時に何からスタートするのかという順番を間違えてしまうのです。
上記の様に場所、物件から入って、「その賃料が払えるビジネスモデル」を作り上げていかれる方が多く、実際に開店してからは見込み通りにならずにその賃料負担の重さに押し潰されてしまうケースが後を絶ちません。ではどこからスタートするのでしょうか。
飲食店は事業計画からスタートせよ
飲食店を複数経営をなさっている方は、出店の場所にあったメニューを考えるという方が多くいらっしゃいます。その事実を踏まえたうえで、ここでは初めて飲食店を出店なさる方を対象話に進めて参りたいと思います。
まずは、メニュー作りからスタートです。
- ターゲットはどのような層を狙うのか
- ランチをいくらで提供するのか
- 何種類に設定するのか
- 夜は客単価をいくらくらいに想定するのか
- メニューの数や提供するお酒の銘柄はどうするのか
等々飲食店の特徴を位置づける重要なコンテンツを決めます。
次は、原価計算です。一つ一つのメニューを構成する食材の量、調味料などをすべて書き出します。その上で一日に想定される注文数から月当たりの注文数を想定し、食材の仕入れ量が計算できます。
その際、各メニューの原価率を決めます。例えば、看板メニューとなるものは戦略メニューと位置づけ、原価が高くても人を呼ぶために必ず作ります。反対に原価率の低い利益の出せるメニューも配置しましょう。結果平均原価率が「30%」に収まるのが理想です。
続いて人件費の計算です。一緒に開業するパートナーの給料、アルバイトを雇う場合の人件費(1時間当たりの時給×勤務時間)アルバイトの場合は、シフトで1人の時や2人の場合があります。月で延べ時間を計算し単価を掛けて算出してください。
最後に1ヶ月の売上を予想します。
客単価の予想、原価率がたてられたところでお店の規模をイメージします。カウンターの席数、テーブルの席数などです。この席数から1日の来客数を予想し先程の客単価を掛け、月の稼働日を決めれば大よその売上が出てきます。
以上が売上、収益を生み出す事業計画の骨子です。
FLコスト比率からの逆算する賃料
FLコスト比率という言葉をご存知だと思います。売上高に対する材料費(Food)、人件費(Labor)の比率のことです。2014年に日本政策金融公庫総合研究所が行った調査結果では、飲食店の売上高に対し、「材料費30%前後」「人件費35%前後」が健全な飲食店になる基準と言われています。
仮に、売上高100万円とします。そのなかから、材料費30万円、人件費35万円を引くと、残りは35万円となります。この35万円は利益ではありません。この中からお店の賃料、リース代、電気・水道・ガス代を支払わなければなりません。それらをすべて引いた残りが利益です。
この場合、リース代が2万円、水光熱費で5万円、ナプキンや箸などの消耗品に3万円を支出すればこの時点ですでに10万円です。
残りは25万円になります。この中から賃料を払うのですが、売上が100万円で安定するとは限りません。90万の月も80万の月もあることでしょう。
もし80万円しか売り上げが出なかったらどうでしょうか、賃料は18万円の中から捻出することになります。もし20万の家賃を払っていたらマイナス2万円の赤字となります。
飲食店は一等地=繁盛の方程式にあてはまらない
駅前や商店街など人通りの多い場所を飲食店業界では「1等地」と呼んでいます。
これも勘違いを生む言葉です。その場所でお店を開けば無条件に繁盛する、お金が儲かると考えるのは早計です。上記で検証した通りどれだけ売り上げが出せるかはメニューと客席数にかかっています。
つまり業態によって限界が自ずと生まれることを意味しています。しかし1等地は間違いなく家賃が高いのです。つまりいくら売り上げてもFLコストを除いたお金が家賃に食い潰されてしまうことを意味しています。
不動産会社は言いたがりませんが、一等地とは、「家賃をもらう大家さんにとって一番稼げるという意味で一等地」であって、借りる側にとっての言葉ではないのです。
借りる側の視点に立つならば、1.5等地つまり人通りの多い通りから1本入った場所や商店街のハズレ、視認性の悪い区画(地下や上層階)でも宣伝次第で繁盛店に育てられる可能性があります。
賃料が安く抑えられる分、想定した売上に届くまでに時間がかかります。その期間中に想定売上に不足する額を運転資金としてあらかじめ見込んでおけば、時間はかかってもリピーターがついて売上が安定してくると想定通りのお金を残すことが可能となります。
~まとめ~
スケルトン物件にせよ居抜き物件にせよ、新たに飲食店で開業したいと物件を探されている方の数に比べマーケットの対象物件数は圧倒的に少ないというのが現状です。
当然貸し物件としてマーケットに登場すればすぐになくなってしまいます。早いもので1週間、長いもので2ヶ月ぐらいでしょうか。
これまでお会いした方で、5回申込書を書いて、5回とも競合した申込者に負けてしまったという方がおられました。次回は必ず取りたいと意気込んでおられました。
更にお話を伺うと、人気の1等地ばかりを選んで申込まれていたようですが、売上にたいする家賃の適正水準は計算されていないようでした。
これに対し駅から大通りを渡った側の一本裏手にある物件をお借りになったフレンチのシェフは支払える賃料の上限を計算し、その範囲内で探し続けていたと話されていました。
その時のシェフの一言が耳に残っています。「自分にはお客さんがついているから正直どこでもやっていける自信はある」
飲食店が繁盛する物件とはなにかを考えさせられる重みのある一言でした。