焼き鳥屋を繁盛させるコツは、軒先で鳥串を焼き、わざと焼いた煙を店の外へ出して客の胃袋を刺激するといいます。鰻屋も古来同じ手法でお客様を呼びこんできました。
最近そんな日本の原風景に異変が生じてきています。
それは、こういった飲食店が出す煙やにおいを悪臭として苦情がよせられるようになってきたからです。従来畜産や製造工場からでるにおいが苦情の大半だった日本。その現状と解決方法を考えて見たいと思います。
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悪臭苦情の実態
平成5年頃、全国で1万件弱だった苦情件数は、平成15年に2万4千件余りとその数が1.5倍まで跳ね上がります。これを都道府県別にみると上位は東京、愛知、神奈川の順になります。
もう一つのデータとして、人口100万人当たりの苦情発生件数でみると面白い結果が出てきます。上から沖縄、宮崎、山梨の結果です。苦情件数の上位3つは納得できるところだと思いますが、次の100万人当たりの上位3県には違和感を覚えるのではないでしょうか。
それを解くカギが、臭いの発生源別の苦情件数を見れば納得です。
- 野外焼却 27%
- サービス業 15%
- 個人住宅・アパート 12%
- 畜産業 11%
お分かりの様に、苦情の発生源のトップは野外焼却です。100万人当たりの上位県では、この野外焼却と畜産による苦情が上位を占めており、都心部とは全く異なった環境であることが分かります。
食べ物とにおいの関係
人間の持つ本能として備わる嗅覚。本来食べ物のにおいで腐敗していないかを判断したり、美味しさや食べた時の記憶を呼び覚ます作用があるといわれています。ところが、においというのもは厄介で、自分が関わるにおいには寛容なわりに他人が発生させるにおいには厳しという側面があります。何かの理由で、においと不快な思いが一度でも結びつくとそれ以降そのにおいに対し敏感に反応する傾向があるようです。
今、都心部の飲食店に起きている2つの傾向
もともと飲食店向けの不動産供給量が少ない駅前やオフィスエリアの立地で、名のあるナショナルチェーンが軒並み出店をしたことがさらなる供給不足を呼び、これまで飲食店としては不向きとされてきた住宅エリアまで出店の検討をせざるをえなくなりました。結果、周辺住民とにおいによる軋轢が増してきたのです。
もう一つは業種の多様化です。昭和の頃から考えますと数多くの業態が生まれてきています。イタリアンやバルと呼ばれるものや、焼肉、ラーメンの業態で多様化が進み以前に比べて、油を含んだ煙がより多く発生するようになりました。
それまで、せいぜい焼き鳥と鰻屋が主流だったにおい苦情に、ニンニクや油を大量に使って炒め物や焼き物をする業態に日本人の好みが変わってきことで苦情の内容も変化したと言えるでしょう。
飲食店の悪臭苦情ランキング
- 1位 焼肉・ホルモン店 12% ~肉を焼く時のにおいや油~
- 2位 惣菜・弁当屋) 10.7% ~製造工程から出る排水のにおい~
- 3位 ラーメン店 10.3% ~スープを煮込むにおい~
- 4位 焼き鳥店 7.7% ~焼き鳥を焼くにおいや油
- 5位 居酒屋 7.0% ~いろいろな調理の臭い~
- 6位 中華料理 6.7% ~ニンニクや油のにおい~
- その他 カレー・トンカツ・イタリアン・天婦羅・うなぎ蒲焼・お好み焼き
(平成22年度地方公共団体アンケート調査より)
飲食店における臭いの発生源
これまでの話の展開として、においは調理中発生するものとして書いてきましたが、実はもう一つ大きな要素があります。
それは排水が原因で起こる苦情です。厄介なことに飲食店から少し離れた場所で発生すケースが多く対策が必要です。
飲食店におけるにおいの発生源の割合
- 1位 調理臭 71%
- 2位 排水 21%
- 3位 ゴミ 3%
- 4位 その他 5%
(平成22年度地方公共団体アンケート調査より)
3つのキーワードで考える飲食店の臭気対策
大きく3つの方法に分かれます。
「においの元を断つ」「できるだけ薄める」「装置で取り除く」
においの元を断つ
調理臭対策
- 換気扇やダクトの排出口の向きが住宅やオフィスビルの吸気口にむかないよう気を付ける
- ダクト以外に窓や出入口から漏れないよう密閉化を強化する
排水対策
- グリストラップはこまめに油を回収し、沈殿しているヘドロをすくいとる
- 厨房内及び店舗そばの側溝の清掃。油分やゴミの撤去
- ビルピットの定期的な清掃。ビル全体に影響する可能性もある。
- 合併マスなどの定期清掃。ヘドロが溜り悪臭を放つことがあります。
ゴミ
- ゴミ置き場。清掃の徹底と容器の密閉化を実施
- 屋外の生ごみ。カラスなどの被害から守る容器の使用、置場の変更
- 回収業者と打ち合わせで引き取り時間の工夫
においをできるだけ薄める
換気扇やダクトの位置、噴き出しの高さにより格段の差が生じます。
・拡散を促すよう排気する
拡散を促す排気とは。周辺の建物との関係で対応が変わってきます。もし2階建ての建物が建ち並ぶような場所であれば、屋根の上までダクトをあげれば十分においの希薄化が可能です。但し、両サイドを8階建てのマンションに挟まれているようなケースではそうはいきません。ダクトの高さで臭いの解決をしようとすると8階以上の高さにダクトをあげなければならなくなります。現実的ではないですね。その場合は次の装置に頼ることとなります。
装置で取り除く
油煙やニンニクなどの強烈なにおいを発する重飲食業態で、苦情が出た場合、もしダクトの 吹き出し口を高くして事態を解消できない場合は脱臭装置に頼るほかありません。
いくつかの方法を紹介します。
脱臭フィルター
難燃性不織布やセラミック、活性炭、ゼオライトを材料としたにおい物質を表面に吸着さえ るタイプのものです。設置費用が安く真っ先に検討されるものですが、装置類に比べキャパ シティーが劣るため毎日か数日で交換しなければならず維持管理がとても大変です。
燃焼法
どんなに油分を含んでいようと強い臭いを発していようとほぼ完全に対応できます。直接燃 焼、触媒燃焼、蓄熱燃焼などのタイプがありますが、比較的装置が大きくなることや燃料費 がかかることから小規模飲食店には向かないといえるでしょう。
洗浄法
アクアフィルターなどと呼ばれるタイプのもので、フード内に集められた排煙を、外に放出 する前に、フィルター内で水や酸、アルカリ成分と接触させにおい成分を吸着除去するもの です。比較的簡単で小規模な飲食店でも十分使いこなせます。
プラズマ脱臭法
電気的ににおい成分を分解する方法。特に薬品を使用しない為ランニングは電気代だけとな るのですがその分イニシャルにコストがかかります。触媒部分が油分で汚れることで著しく 効果が低下する傾向にあるため毎日の手入れが必要。
~まとめ~
たまに流れてくる香しき料理のにおいも毎日となればうんざりということになります。また人によって感じ方の違うこの問題を画一的な判断で解決するのはなかなか難しいと言えるのではないでしょうか。
実際においにさらされる方は、我慢をしてきて突然限界を迎えることが多いようです。都市部で飲食店が住宅やオフィスと共存するには、出す側の甘えを捨てクレームがあってからの対応ではなく、事前に対処方法を考えてからの開店をお薦めします。
一度もめると本当に大変です。くれぐれも初期対応を間違えないようお願い致します。