飲食店の数だけ店先に置かれている看板。それ以上に、行き交う人の多さに比例して存在しているようにも思える看板。
店先に看板の少ない繁華街はよく言えばスッキリしていますが、反対に活気の感じられない街の印象さえうけます。
もっとも横浜元町の様に人が多いにも関わらず商店会がシッカリしていて看板の規制をしているところは別ですが。
1人でも多くのお客様を呼びたい、新規のお客様に気づいてもらいたいとの願いを込めてデザイン、大きさ、素材を考え配色やメッセージなども悩んで作られたことでしょう。
一方、オーナーシェフの様な料理や素材に拘りのある方の傾向として、メニューや内装を優先しそれに比べ外観や看板はシンプルにという方が多いように思います。
そもそも別のお店で修業をされ、ご自身のファンを引き連れてのオープンであれば何の問題もありませんが、コンセプトからオープンまですべて初めてとなればそうはいきません。
看板の宣伝効果なしに自然にお客様が付くころに運転資金が尽きてしまわないとも限りません。
今回は、看板効果のテクニックではなく、プロが考える看板とは、店を選ぶお客様がどんな情報を欲しているのか、またそれに対応するにはいかなる手段をもちいるのかといった視点からあらためて看板を考えて見たいと思います。
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そもそも看板のありかたを問う
もともとは氷屋さんからスタートしたコンビニエンスストアーをご存知ですか?看板に使われている色はオレンジ、緑、赤色です。
この説明だけですと何の事かと思われるかもしれませんが、これ「セブンイレブン」のイメージカラーです。
この3色には理由があります。オレンジ=夜明けの空の色、緑=オアシス、赤=夕焼けの空の色。
創業当時は店名と同じく朝の7時から夜の11時迄営業していたセブンイレブン。日の出から日没までお客様のオアシスになることを目指しこのカラーコンセプトにたどり着いたようです。
もう一つ海外由来のコンビニエンスストアーと言えば「ローソン」です。最初はダイエーグループでしたが今では三菱商事が筆頭株主となりトップのセブンイレブンを猛追中です。
こちらはオハイオ州の牛乳販売店が起源です。青地に白いミルク缶は創業当時のままだそうです。
一方青に緑の看板と言えば、和製コンビニエンスストア「ファミリーマート」です。青=都会、知性、自由を表し、緑=自然、フレッシュ感、清潔感をイメージしています。
その組み合わせとして快適環境を表現したそうです。こちらは、創業時西友傘下でしたが筆頭株主は伊藤忠商事に代わり、2010年には海外勢のam/pmを買収しています。
ここに挙げた3社の看板、チェーン店として広く受け入れられることを前提に考えられています。
自分たちのお店は、「誰に対して何を提供したいのか」というコンセプトがまず第一に重要なポイントです。
このぶれないコンセプトこそ行く先の方向感に迷いが出た時のよりどころとなる重要な道標となるのです。
飲食店でいえば、
- 看板
- お店の提供する料理
- サービス
が一致して初めて繁盛店となる前提が整ったと言えるのです。
プロの広告会社が考える看板の見せ方とは
以前オフィスビルの屋上に看板を誘致するというプロジェクトを企画したことがあります。
まず看板広告のプロにお話しと提案を頂くことになったのですが、そこで伺ったお話が飲食店の看板作成にも大いに役立ちそうなので少しお話ししたいと思います。
その看板広告会社はこんな提案をしてきました。
広告物を掲出する骨組みや基礎などすべて看板広告会社が負担すると言うのです。なぜならそこから得られる収益に自信があるからと言います。それはなぜか。視認性と訴求力を数値でアピールできるノウハウがあるからです。
まず看板が見える道路、歩道から視認性をチェックする為に何百メートルも離れた場所から50メール刻みで建物、看板設置場所の写真を撮り視認性をチェックします。
このデータをもとに車で何秒、徒歩で何秒、どの位置からどの程度の内容(情報)が認知できるかと言った詳細なレポートを作成しています。
車であればスピードの出る道なので、会社名と会社ロゴ程度しか認知は難しいだろうだとか、歩行者からは角度があり見上げる結果になるので気が付かない可能性があるなど、今でいうバーチャルシミュレーションです。
プロからみた宣伝の視点
さて、広告のプロは意外なところに着目してきました。
この場所なら高さのある広告塔を作ることでJRのホームからよく見えるのでそこからの視認性を武器に看板広告をクライアントに売り込むと言うのです。
実際にホームに立ってみるとビル自体は別のビルの陰になっていますが、上部はポッカリ空いています。なるほどこれならよく見えます。まさに目から鱗でした。
飲食店に応用する
同じように飲食店の看板を出した際にどのように見えるのかシミュレーションを行うのは非常に大事です。
デザインや色使いなど最高の傑作でも実際に取り付けてみるとあまり目立たないと言うことは往々にしてあります。
隣の看板が電飾を使っている関係で色合いが違って見えるかもしれません。看板を取り付けてからでは遅すぎます。
お店を見渡せるすべての通りから一番目立つものを昼、夜とシミュレーションすることはとても重要です。
以前お店の軒先に突き出した白地テント型の庇があったのですが何か宣伝に使えないだろうかと相談を受けたことがあります。
そのお店は商店街が途切れる一番端に位置していたため夜になると目立たず沈んでいました。そこでテントの内側からテントの外側に向けてライティングを変えたところ、行灯(あんどん)の様に周りがボワァッと明るくなり逆にその店が浮き上がって見えるようになったのです。
いろいろな時間帯で、看板との距離も変えて写真を撮ることで重要なポイントは必ず見えてきます。
デジタルサイネージを使った飲食店3つの実例
新橋や品川のJR構内ですべての柱に取り付けられた大型テレビの様なディスプレイをご覧になったことがあると思います。まさにあの動画方式や大型ディスプレイを使った広告宣伝をデジタルサイネージと呼びます。
これまで設備や宣伝の中身にお金がかかり、大企業の宣伝方法と見なされてきたのですが、最近はレンタルで格安の物が出始めました。実はこのデジタルサイネージをお店の店先に置いて使い始めた店舗からは意外な効果が報告されています。
その実例をご紹介します。
2階にあるカフェ
繁華街にあり、時間により満席となるのですが、逆にそのことが災いしてピークが過ぎると途端に人が入らなくなることが悩みだったようです。
店頭に置いた43インチ=概ね横50cm×縦95cmのディスプレイに店内の様子を時折流すことで、今まで階段をわざわざ上って来たにもかかわらず入れなかったお客様がピークを過ぎた店の様子を見て来店して下さるようになったと効果を話されています。
3階にあるBAR
エレベーターがエントランスから一番奥の位置にあり初めての方は入りづらい雰囲気のお店です。
実際には、オープンな店内で3Fから見下ろす夜景が大きな窓から見渡せてとても開放感があるのです。
これまでなかなか通りを行く人たちに伝えられずに来たそうです。このデジタルサイネージを使い実際の眺めを動画で流し始めたところ新規のお客様が20%も増えたと満足されています。
チョット高めのイタリアン
見るからに高そうなイタリアンのお店です。
でも値段を下げてまでお客様を増やすことまでは考えたくないと言うプライドもあります。そこでこのお店がデジタルサイネージを使ってある映像を流したところ、チョット背伸びをして来店してくれる方が増えたそうです。
一体その映像とは何だったのでしょうか?
実は磨きこまれた厨房で実際に調理をするシェフの姿をライブ映像として流したそうです。この姿に興味をそそられ来店してくれるOLさんやカップルが増えたと効果を話されています。
コロナ後に飲食店の看板が向かう先
これまで、看板と言えば出来る限りの情報やイメージを限られた面積の中で伝えようと知恵を絞ってきました。
それは別に時代遅れとか言うものではなく、その方法では伝えられない情報を別のツールを使って訴求できるようになったとお伝えしたかったのです。
このデジタルサイネージは固定の看板やタペストリーと違い、パソコンで入力した内容をWi-Fiで伝送している関係で、その日の状況にあわせて内容を変えることが出来ます。
暑い日にはよく冷えたビールやシャンパンの映像を流したり、自慢の料理を素材や調理法などコンパクトにまとめて流すことも可能です。また予期せぬ雨の日など機動的に割引サービスを打つことも朝飯前です。
さて、今一度「誰に」「何をサービスすべきか」を再確認し「訴求すべきコンテンツは何か」を問えば、新たな伝え方の活用法が見つかると思います。
実例を見てもお分かりの様に一度試してみるだけの価値はあるでしょう。