A:「あれ?あそこの店いつ閉店したの?」 B:「ちょっと前からだよ。」
A:「やっぱりな、やってけないと思ったよ。あそこはコンビニの立地かな。」
C:「いや、コンビニはもういらないからトンカツ屋が欲しい。」B:「いやいやワインを飲ませるバルだな。」
などなど閉店した飲食店舗を肴に会話に花が咲くことがあります。
都内にある飲食店舗の数は8万5,000店弱と言われています。全国にある飲食店舗の数が67万店と言いますから実に1割以上が都内に集まっている計算になります。
さて、これだけ見ても 飲食店舗が多いのか少ないのか見当がつきません。同じ不動産でも住宅やオフィスに比べどのような特徴があるのか調べてみたいと思います。
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飲食店舗の魅力はその希少性にあり
都内23区にある店舗、事務所、住宅の床面積でまず比較してみましょう。
23区全体の建物床面積の合計が1億4,500万坪あります。その内飲食を含む店舗の合計床が590万坪(4%)、事務所の合計床が2,720万坪(19%)、住宅の合計床が9,920万坪(69%)となっています。店舗の占める面積がいかに少ないかお分かりだと思います。
次に、店舗の内訳をみてみましょう。店舗全体の内、飲食店舗の構成割合が約13%ですので、77万坪(0.5%)ということになります。結果、いかに飲食店舗物件が貴重な存在かご理解いただけたと思います。
ではどうしてこのように物件が少ないのでしょうか。これには明確な理由があります。
日本の都市計画には土地の利用方法を制限する「用途地域」と建てられる大きさを制限する「容積率」が定められています。閑静な住宅街に工場や商業施設を作らせない為だったり人や事業所が集積する場所で土地の未利用などを防ぐための法律です。
その為人が集まる商業地域では土地の面積の4倍~10倍のオフィスビルやマンションを建てることを認め高度利用できるように設定しています。従ってオフィスや住宅の面積は街の需要により増やすことが可能です。
これに対し、 飲食店舗はどうでしょう。視認性の問題もあり1階が基本です。後は、地下1階、2階程度が限界です。土地の面積に対してせいぜい3倍の利用が限度です。
また、立地にもハンデがあります。オフィスやマンションは徒3分も8分もあまり大差ないのですが、 飲食店舗立地ではこの差が大きく、お店の収益に大きく左右します。人の流れがない場所は、駅に近いからと言って飲食店舗に適さない立地となります。かくも飲食店舗立地というのはデリケートなものなのです。
飲食店舗・住宅・オフィスを扱う不動産会各社の事情
次にGoogleでweb上にアップされている件数をキーワードで比較してみることにしました。
- 「東京」+「住宅物件」+「賃貸」 ・・・ 3,940万件
- 「東京」+「オフィス物件」+「賃貸」・・・ 2,540万件
- 「東京」+「 飲食店舗物件」+「賃貸」・・・ 1,920万件
やはり、 飲食店舗物件に関する情報が少ないことが見て取れます。
これは、それぞれのカテゴリーに関わる不動産会社の数とそこに携わる人の数に起因しています。
住宅系物件を扱う不動産会社
三井、東急、野村など大手が参入しおり、どこも主要駅の数だけ店を構えるなど各社しのぎを削っています。また、ネットのみで物件を掲載する不動産会社が昨今数多く生まれ情報が氾濫しています。
オフィス系物件を扱う不動産会社
専門性が住宅に比べると高くなります。長らく大手と呼ばれる4~5社が大型物件を扱い、その他の小規模会社が中小ビルの仲介をするというすみ分けが出来ていたのですが、こちらもネットで物件を掲載する不動産会社が増え手数料の無料化などのダンピングが横行しています。
飲食店舗を扱う不動産会社
基本住宅系もオフィス系も扱いはあります。ただ、物件の数や物件を求めるお客様の数が本業の住宅やオフィスに比べ極端に少ないためにあまり力を入れてこなかったというのが実態です。
ここ数年 飲食店舗を専門に扱う会社が急増しています。この中には単純に仲介をする会社とサブリースといって一旦物件を借上げ転貸する会社と二つの流れが出来つつあります。この人気のさきがけとなったのが「居抜き」と呼ばれる物件の存在です。
飲食店舗不動産の流れを変えた「居抜き」とは
本来飲食店が閉店退去の場合、原状回復工事を行い物件をもとの状態(スケルトン)にしなければならないのですが、飲食店を閉める側に原状回復工事費を負担できる体力が残っていない。
また、大家側にもスケルトンにした場合、次にテナントが決まりづらいというお互いの事情が合致して「居抜き」という取引形態を生みだされたのでした。
この「居抜き」ただ単に造作や厨房機器を残すだけではなく閉店希望者から出店希望者へ金銭を伴った売買がなされるようになりました。その売買に絡み本来の不動産仲介手数料以外に造作や厨房機器の売買手数料を不動産会社が取るようになったのです。
このような内装造作や厨房機器が一体となった飲食店舗物件の取引数が、飲食店物件の流通件数全体の内で3割にまで増えたことに加え本来の仲介手数料以外に売買による手数料が稼げるとあって比較的小型の不動産各社参入してきています。
飲食店舗不動産流通マーケットの特異性を知る
住居系、オフィス系不動産物件に比べ 飲食店舗不動産マーケットが大きく異なる部分がまだあります。それは物件価格のボラティリティー(価格の変動幅)が大きいことです。
一般的な不動産物件は、物件が数多く流通することでそれに携わる不動産会社や営業マンの数が増えて行き、同時にマーケットのデータベースが出来上がってきます。いわゆる相場というものです。これにより、立地、規模、築年数といった情報だけで概ね取引価格が想定できます。
ところが飲食店舗の場合、取引件数が少なく情報もあまり流通してこなかったことが災いして貸す側も仲介する側も「高く」決めるより「早く」決めてしまいたいという焦りがあるといいます。
その為新しくマーケットに出てきた物件の募集条件を見てみると、どのように値付けをしたのか、物件ごとに価格の開きがかなり見受けられます。極端な場合で、たった10坪ほどの 飲食店舗 で二軒隣りあわせにも拘わらず総額で5万円以上の開きがある場合があります。もっとも、ネットでの情報公開も進んできていますので今後は解消に向かうものと思われます。
飲食店舗業態にみる賃料の負担感
駅前の一等地と言えばコンビニ、牛丼、ハンバーガーが三種の神器のごとく出店を競ってきました。ここだけは明確なマーケットが存在します。なぜなら常に数社で物件の争奪戦を繰り広げており、入札といって一番高い家賃札を入れた会社が競り落とすシステムが機能しているからです。
彼らはやみ雲に高い金額を払っているわけではなく、高い賃料に見合うだけの売上が見込めるので払えると言う訳です。もっとも130店舗も閉店したマクドナルドのように採算を無視して出店し続けていたケースもあるので一概に駅前出店=高収益とはいかないのかもしれません。
同じ賃料でも客単価が業態によって異なります。例えばそのいい例が中華料理です。料理の原価率が低い分高い賃料でも利益が出しやすいとされています。同様に語られるのがカレー専門店も同じです。
逆に、フレンチのような客単価が高いもののお客様の回転数で劣る業態などは、少々賃料の安い物件でないと採算は合わないでしょう。食材の廃棄率が高く、下ごしらえに時間を要する和食なども基本同じです。ではなぜ鮨は銀座の様な高額賃料でもやっていけるのでしょうか?鮨ネタ以外のコストがほぼ人件費という付加価値の高い業種です。原価率ではなく原価の何倍の価格で販売されているのでやっていけるのです。
不動産収益還元法からみた価格決定のメカニズム
マンションなどの不動産は住むという目的がハッキリしているので、場所による賃料価格差は単純に固定資産税の額に由来します。オフィスビルの賃料は、入居する会社の事業モデルとリンクするところがあり業種や客層により偏りが見られます。ただハッキリ言えるのは、その物件自体に不動産としての魅力がない場合、価格競争を避けられないのがマンションでありオフィス物件です。特にオフィスなどは大型新築ビルが出来るたびに「引き抜き」という価格提案がなされています。
ところが、 飲食店舗物件にはこのような状況は基本生まれません。どんなに物件として弱いと思われている場所でも、立地に対して賃料が割安であるならその場所で店を出そうという人が現れます。同じように駅前の1等地で、高くてだれも借り手がいないという物件であっても、時間をかければ必ず借手が不思議と見つかるものです。少し乱暴な言い方ですが、ジックリ借手を探せば希望の金額で貸せるのが飲食店舗です、逆に焦って借手を探せば安く決めてしまうことになります。このあたり、大家さんの体力があるか無いかが分岐点となります。
~まとめ~飲食店舗不動産の今後を占う
現在、 飲食店舗の不動産数は減少傾向にあります。理由は、下記に列挙するものがほとんどです。
- 閉店による入れ替えが多くその度募集に苦労する
- 飲食店舗は臭い、汚い、
- 火災の心配がある
これらをあげる大家さんが大半です。情報の流通量が少ない為に起きている現実です。
従来の不動産会社、 飲食店舗専門不動産会社、ネット不動産すべてにおいて情報を狭い範囲で囲い込まずに開示して頂くことで偏見のないデータベースが構築されることでしょう。更に内装、造作や厨房機器の売買についても説明責任を不動産各社が果たすことで理解が進み再び飲食店舗物件は必ず増えてきます。ウイズコロナ、アフターコロナの今こそ業界を挙げての取り組みが必要なのです。