一般的に、飲食店で独立、開業される方はどこかで店舗物件を借りなければなりません。
まずは現地に足を運び物件選びです。もしその物件が気に入れば貸室申込書を書いて貸してもらえるかどうか不動産会社に審査をお願いすることになります。
飲食店など事業用不動産の場合、居住用のマンションなどと違い時間がかかるケースが多く、場合によってはお断りを受けるケースが出てきます。
飲食お断りの物件に飲食目的で貸してほしいと申し込みを入れたのならば当然ですが、なぜ待たされたのか、なぜ審査に落ちたのか釈然としないことがほとんどです。(理由はほぼおしえてくれません)
今回は誰に聞いても教えてくれなかった不動産賃貸借申込書(通称:貸室申込書)にまつわる審査の実態を書いてみたいと思います。これから申し込みをなさる方にとっては心構えとして参考にして頂ければ幸いです。
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賃貸には決まり文句がつきもの
飲食店舗など事業用物件の室内を見学することを業界的には「内見」(ないけん)と呼びます。この内見の申し入れをすると決まって管理をしている不動産会社から言われる一言に
「1件検討しているお客様がいる」があります。
不動産仲介会社は飲食店舗を探すお客様の為要望に合致する物件を探し出し、その物件を管理している不動産会社に確認の電話を入れます。
業界用語で「物確」(ぶっかく・物件確認のこと)というのですが、彼らでさえ7割、8割の確率で同じ言葉を聞いています。
それなぜか?申し込みをしたお客様にお断りをしなければならなくなった時の伏線としているのです。
「申し訳ありません。先に検討しているお客様で決まりそうですからお貸できません。」といった具合です。
貸室の申込から回答まで時間がかかる理由
大きく二つの理由があります。
1.他社からの申込は一旦「放置」する
これはどういうことかと言うと、物件を管理している不動産会社のなかでも毎月の管理料をとっているケースはまれで、大半は新規の契約、更新契約、解約の手続きなどのイベント毎に手数料を大家さんやテナントから徴収して生計をたてています。
従って、飲食店舗物件のテナントを自分で決めて手数料を稼ぎたいと思うことは自然な流れです。ましてや賃料が高い物件ともなれば余計にです。
では具体例でお話します。物件を一般公開して入ってきた他社からの申込は、自分の手数料を稼ぐために一旦放置しておくのです。
不動産業界を知らない方であれば、そんなことをしなくても契約して大家さんから手数料をもらえばいいではないかとお思いの方もいらっしゃるでしょう。でも彼らは報酬額の賃料1ヶ月では満足せず大家さんからもテナントからも手数料をもらう業界用語で両手といわれる2ヶ月分の報酬にこだわるのです。
これを可能にしているのが解約申入れから明渡までの猶予期間が賃貸借契約には入っているからです。
この期間のことを解約予告期間と呼び、期間途中での中途解約特約として、ほぼ100%と言っていいほど賃貸借契約に盛り込まれています。
賃貸マンションを借りた場合でも、明け渡す1ヶ月前までに書面で申し出るものとするとなっているはずですが、事業用である飲食店舗などは3ヶ月~8ヶ月の期間が定められています。
この時間内であれば、大家さんに入る賃料が途切れることもないので管理をしている管理会社はゆっくりと次のテナントを探せばいいのです。
だから、この期間中は待たされることが頻発します。もし今待たされているとすれば理由の大半はこのケースです。
2.驚くなかれ単なる怠慢も多い
街場の不動産会社、ことに古くから管理を任されているところなどは、町内会のお付き合い同然です。大家さんと幼馴染とか父親同士仲がいいとか様々ですが、ともかくツーカーの仲です。
そのこと自体はイイのですが、よく知ってるが故に何時でも話が出来ると思っているのかすぐに連絡を取らない方が存在します。その理由は分かりませんがそのような不動産会社が多数生息することは間違いありません。
そればかりか、この手の不動産会社に回答を急かすと嫌がらせが帰ってきます。
例えば、申込んだ方の経歴書を出して欲しいとか、事業計画を作れとか、ひどい時などメニューを出せと言います。こちらから連絡した時に追加資料の要求がある場合は大抵照れ隠しで、自分は悪くないと正当化する為の要求です。実に面倒です。
連帯保証人と保証会社の関係
居住用であれ事業用であれ必ず連帯保証人をつけて欲しいと要求されます。
社会構造の変化なのか核家族化が進み、最近連帯保証人をたてられない方が増えているように思います。理由は様々です。親、兄弟に迷惑は掛けたくない、頼りたくないなどの理由から友人や会社の元同僚など様々です。
本来賃料の支払い能力がある方であれば連帯保証人は合格なのですが、親兄弟などの親族でなければ認めないと言う管理会社があります。その理由はこうです。
いざ連帯保証人に賃料の肩代わりをお願いした際に他人は逃げてしまうのに比べ血のつながった親族は最後は何とかしてくれると言うのです。法的に言えば債務に対する責任はなんら変わらないのですが。
最近、最近保証会社加入が必須となっている賃貸物件が増えてきました。以前は居住用賃貸が主だったのですが事業用にも進出してきています。
この保証会社、保険の様に掛金を払えば、賃料の支払が出来なくなった際に肩代わりしてくれるシステムだと勘違いしている方が結構いらっしゃいます。実はそうではありません。
最初に約束をした月数分だけ一時的に肩代わりをしてくれるだけで、結局は保証会社に肩代わりしてもらった分は返済しなければなりません。
また、連帯保証人の代わりになってくれるものだと思っている方も多いようですが、基本的に連帯保証人が付いていないと保証会社は受けてくれません。まれに連帯保証人がいなくても通るケースがありますがかなり特殊なケースです。
貸室申込審査の核心はここ
「支払能力」と「業種」です。
これから飲食店を始める方ですと、お店が繁盛するかどうかは契約前には分かりようもありません。当然連帯保証人の支払い能力となるのですが、現役で働いていらっしゃるのであればその「年収」、リタイアされているのであれば以前勤めていた会社と勤続年数から「退職金」の額を予想します。
もっとも、貸す側からすればそれでは足りないからと言ってお断りをすることはなく、保証会社をプラスして与信の補完をするのです。
次に業種です。近隣からクレームの出る業種は極力さけます。
煙が大量に出たり、臭いがきつかったり、深夜まで営業したり、大きな音で音楽を流さないかチェックが入ります。これらは、入居後手が掛からないテナントかどうかのチェックと言い換えてもいいかもしれません。
たまに、人物像を問う大家さんが面接を申し出ることがあります。大人しそうか、文句を言わなさそうか、大家さんにより視点は様々ですが、以前こんなことがありました。
面談も終わり無事承諾が出そうだったのですが、お断りを受けてしまいました。その理由が、改めて大家さん立ち合いで物件を内見した際、申込をされていた方がポケットに手を入れたまま大家さんと話をしていたことが原因だったのです。
そんなことでと思われるかもしれませんが、大家さんの経験則のようですから借りる側は文句の言いようがありません。ただ気を付けるだけです。
~まとめ~
冒頭でお話しした様に飲食店舗を借りるとなると事業者としての扱いとなり、居住用の不動産の様な保護は受けられなくなります。物件探しも自己責任で、お行儀のよくない不動産会社に惑わされないことが重要です。
運よく意中の物件にたどり着いたとしても貸してもらえる保証はありません。それは不動産会社も大家さんも同じ事業者だからです。
そんな事情を理解したうえで、大家さん向けのプレゼン資料は有効です。写真をふんだんに使用し飲食店であれば大家さんも食べてみたいと思わせるようなものです。
どんな言葉より説得力がありますし資料の完成度がイコール申込者の人となりとなって伝わります。これならきっとお店も流行るだろうと思って頂ければ賃料の支払いについても心配いらなくなります。
物件が見つかってから作っていては物件をとられてしまう可能性が大きくなります。是非事前に作っておき申込書に添付されることをお薦めします。効果絶大です。