独立、開業を目指す皆さんにとって物件を見て回ることは夢の入り口を探すようなワクワク感をかんじることでしょう。
しかし1度や2度の内見(不動産用語で実際に物件内部を見学することを指す)で運命の店舗物件に出会えることはまずありません。5回、10回と回数を重ねる方も少なくありませんし、中には半年、1年と探し続けている方々もいらっしゃいます。とは言えほぼ希望通りの物件に巡り会うこともない訳ではありません。
ただ、賃貸条件が予算オーバーだったり、造作の売却価格が予算オーバーだったり、厨房設備が弱かったりと悩ましい部分がどこか一つ二つあるものです。どうしようか悩んでいる間に物件がなくなってしまいます。
今回は、簡単に工事のできる電気設備ではなく工事期間も金額もかかるガス工事が必要な場合に、そのガス容量不足を補う方法を具体例を交えて考えてみたいと思います。
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厨房の電気化が進まない訳
2000年代に入り、世界規模でのCO2削減が叫ばれ始め、日本は京都議定書などで主導する立場にありました。太陽光発電の補助、買取りに始まりオール電化住宅が台頭し始めたのがまさにこの頃です。積極的な原子力発電も政策その一端でした。
ところが、東日本大震災のあと原子力発電が止まり、電気を大量に消費することへの罪悪感が漂うようになってしまったのは周知のとおりです。飲食店舗で使用される厨房機器などもその例外ではありませんでした。
厨房でガスを使う機器、調理器具
- ガスコンロ
- フライヤー
- オーブン
- スチームコンベックション
- 茹で麺器
- 餃子焼き器
- ピザ窯・タンドリー窯
- 炊飯器
- 給湯器
- 食洗器
今では、これらの機器全てガス式ではなく電気式に変えることが可能です。しかしながら、現在までその代替化が進まないのはこのあたりの事情が大きかったようです。
具体例で考えるガス容量不足の克服方法
ガスの引き込みがない、ガスの使用不可物件の場合に、IHクッキングヒーターをやむなく使用する以外は、これまで通り使い慣れたガスコンロで、と言われる方がほぼ全員です。また、給湯器がガスではなく電気の貯湯式とういのもあまりお目にかかったことがありません。稀にヘアサロンの居抜きなどで見かけるくらいでしょうか。
さて、物件選びで悩ましい問題といえばガス容量です。
屋外のガスメーターを確認するのが一番手っ取り早い方法でが、よくあるのが小型店舗の居抜きで多いのが家庭用と変わらない容量のメーターがついていることです。
当然、容量アップにお金がかかるから別の物件をと考えるのが自然です。
そうならない為に現実的な検証方法で検証してみましょう。 ガス容量不足時の王道は構成変更を考えることです。
ガス3号(33,000kcal/h)で居酒屋は可能か?
20席の居酒屋。昼のランチは焼き魚定食、フライ定食、刺身定食などを想定しており、夜はから揚げ、フライドポテト、コロッケなどの揚げ物に肉じゃがやもつ煮込みなどの煮物、ホッケやシシャモなどの焼き魚を自慢の地酒で楽しんでもらおうとコンセプトを作りました。必要となる厨房機器は以下の通りです。
- 3口ガスレンジ 6,500kcal/h
- フライヤー 5,200kcal/h
- サラマンダー 6,800kcal/h
- 給湯器 10号 19,000kcal/h
- 食洗器 16,000kcal/h
- 合 計 53,500kcal/h
ガス3号(33,000kcal/h)より、20,500kcal/hオーバーです。
そうなると解決方法は次の3通りです。
- 工事をしてガス容量を6号にあげる
- この物件を諦める
- 電気式に代替する
1は状況にもよりますが概ね30~40万円程度の工事代が見込まれます。2は最後の選択です。3が最善の策となります。
ガス容量不足は一部電気へ変更することで解消
解決策:以下の機器を変更
- フライヤーを電気式に変更
- 食洗器を給湯器接続タイプ
- 3口ガスレンジ 6,500kcal/h
- フライヤー 0kcal/h
- サラマンダー 6,800kcal/h
- 給湯器 10号 19,000kcal/h
- 食洗器 0kcal/h
- 合 計 32,300kcal/h < 33,000kcal/h (3号)
問題解決です。この記事をお読みの方で、まさかガス3号で居酒屋なんか出来るわけがないと思っている方結構いらっしゃると思います。ご覧のように十分できてしまいます。
もっと言えば、電気式のフライヤーは温度管理が簡単で、待機中のコストはガスより安いと言われていますしオーダーが入ってから調理できるまでの時間も早いとの事です。
また、一番ガスを使用する給湯器は常にフル稼働しているわけではありませんし、全部の機器をフルパワーで稼働させることも考えづらいので十分に安心できる内容です。
飲食店舗の厨房機器は電気式が主流になる時代がくる
東日本大震災の後都心では電車の間引き運転や、輪番停電などの措置がとられ落ち着かない日々を過ごした方も大勢いらっしゃったと思います。そのさなか、ある都心のオフィスビルが脚光を浴びることになったのですがご存知でしょうか。それは六本木ヒルズです。なぜ脚光を浴びたのか?それは都市ガスによる自家発電装置を持っていたからです。
報道によれば4万Kwもの能力を持ち10%程は東京電力に電気を卸しているとのことです。注目すべきはそのコストです。電気は実は高いのです。その単価と熱に換算した場合の費用対効果からいうと、ガスに比べ約2倍ものコスト高に匹敵すると言われています。この六本木ヒルズがガスの自家発電装置を導入した裏にはそんな理由があったのです。
一般的に言われる話ですが、深夜電力を利用した貯湯式の給湯設備などはコストを安く抑えられるメリットがありますが、飲食店舗で深夜電力を利用する機器はほかに見当たらないことを考えるとコスト的にはガスに軍配が上がります。
2016年4月から始まった電力自由化。発電と送電の分離が進み、競争によるコストダウンが実現できるとの触れ込みでした。まだそのことが実感できるまでには至ってませんが、複合的なサービスと組み合わせての値ごろ感や2050年に向けたカーボンニュートラルの取り組みでは再生可能エネルギーを主体としたクリーンなエネルギーつまり電気式が主流となると予想されています。飲食店の厨房もいづれは電気式が主流となることでしょう。