はじめて伺った飲食店でのことです。案内された席でメニューをお願いすると店員さんは壁の方を指さし定番料理はこちらですと壁一面に貼られた大きなメニューを案内してくれました。次に、今月のおススメメニューはあちらの黒板ですと言って大きなメニューとは反対側にある壁にかかっている黒板を指さしたのです。
最後にお飲み物はテーブルに置いてあるこちらのメニューからお選び下さいと言って献立表のような置き型のメニューを指さすのでした。
なんともせわしなく首を振りながら注文する姿は傍から見ても結構笑えるのではないかと思ったほどです。
多分長年同じスタイルでやってこられたのだと思いますが初めての訪問時は戸惑います。どうしてメニューブックを作成して1枚ないし1冊にまとめないのだろうかと疑問に思います。
料理にはこだわりがあるのに、それをお客様に伝えるメニューにはこだわりがない飲食店が多いように思います。今回はそんなメニューについて考えて見たいと思います。
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飲食店は誰に食べて欲しいかを想定してメニューを決めているか
飲食店をオープンする際、誰にお店の料理を食べて欲しいのか考えたと思います。そのターゲットとなる人がいる場所で開業しようと考えるのが自然だからです。
駅前だったらどこでもいいというものでもありません。若者向けのメニューを巣鴨で出してもダメですしサラリーマン向けのお店を青山や西麻布で出すのもミスマッチです。男女の別でも同じことがいえます。
そもそも立地を選び、店名を決め、内装のイメージを決めることとメニューを決めることは同じ価値観で作られるものです。それが最初にあるべき姿です。さらにマーケティングの見地から言えば、ここがハッキリしないと誰に宣伝、アピールして良いのか分からなくなります。
結果的に飲食店をオープンした後も苦労することになることを意味します。別の言い方をするなら、料理や内装に凝るのならメニューにも力を入れましょう、知恵を絞りましょうと言うことなのです。
どのポジションで差別化をはかるのか
ここも最初にたてるコンセプトの領域ではありますが、一口に居酒屋を始めようとしてもどのような特徴を出して周辺の同じ業態や別の業態からもお客様を引き付けるかがポイントです。例えば、
- 客単価
- 一皿に盛られた料理の量
- 最高の食材の有無
などお客様から解りやすく見える形で勝負を仕掛けなければ何の特徴もないお店になってしまいます。写真映りのいい盛り付けで勝負するのでもいいのです。
ここにこだわりがないとお客様に選んでいただけないことをまず肝に銘じてください。
人気店のメニューと料理の傾向とは
最近人気のあるお店の傾向は総花的にメニューをそろえるのではなく特定のメニューに特化した飲食店がウケています。
肉料理のなかでローストビーフに特化したり、魚の中でも鯖に特化するなどが良い例です。それ以外にも、産地や調理方法を前面に押し出し差別化を図っている飲食店が増えてきました。
ここで重要なのは、特化したことで差別化したことがお客様に伝わるようなネーミングにすることや先程のインスタ映えの様に写真などビジュアルに訴えることで伝わりやすくする努力です。
たまにエスニック系のお店にお邪魔すると現地の呼び名でメニューが書かれていることがあります。用意されている料理がなにでどれをオーダーしていいのかもさっぱりわからないことがあります。コダワリの美味しい店だけに残念に思うことがあります。
価格設定と原価の関係で一工夫
ここで言う価格とは客単価の話ではなく各メニューの原価構成の話です。メニュー全体の原価率が3割程度に収まるのが良いとされていますが、折角特定の食材や料理に寄せたメニュー作りをするのであれば、原価率にもメリハリを効かせてお客様にサプライズを与えたいものです。
例えば、本来1,200円程度で提供するはずの料理、原価にすると360円程です。この値段設定を600円とした場合原価率は6割にまで上昇します。お客様が600円の料理と思って注文したら実は1,200円の品物だったとなればその味に驚かれること間違いありません。
逆に言えば原価を限りなく抑えるメニューも必要です。趣味の菜園で育てた葉物を簡単にごま油とビネガーで和えただけのサラダを500円程で提供できれば原価率は1割以下になります。これらを組み合わせることで利益が生まれるのですが、それ以前に他の店にはないメリハリのよく効いたメニュー作りが可能となります。
絶対欲しい看板メニューを創り出す
メニューの価格設定のところで原価率を高くした料理でサプライズをお客様に与えると言うことをお話ししました。もしこの料理を食べたならまたそのお店に来てその料理を食べたいと思うはずです。この様なメニューを看板メニューと呼びます。
つまり、その飲食店で一番売れる(数が出る)メニューです。だからこそ看板メニューがその飲食店のアイデンティティーとなります。
例えば「○○ならあの店に行こう」、「あそこの○○が今日は食べたい」となり、「○○の美味い店を探したから今度行ってみたら」と口コミも生まれます。
原価率が高く数が出るが利益はあまり出ない看板メニュー。ある飲食店経営者はこういいます。昔は看板メニューがお金を稼いだのが今は看板メニューをおとりに他のメニューで稼ぐといいます。つまり看板メニューの値段が高いと今の時代集客装置にならないと言っているようです。
~まとめ~
このところ油や豆類など食材の価格が安定しない日が続きます。1割2割でも大変なのに、2倍になる食材もあります。
このように原価が高騰してもすぐに値段を上げられないのが飲食業界の苦しいところではないかと思います。
価格が安定している食材を上手く組み合わせて安定した利益が残せるように工夫することが求められるのですが、季節や流行とともに移り行くお客様の好みを敏感に感じ取りメニューに加えて行く不断の努力が何よりの大切です。