飲食店を開業するにあたりなくてはならないものの一つ「電気」。
飲食店も家庭用も電気に対する考え方は基本は同じでが、提供する料理の種類やお店の大きさで変わります。
もう少し詳しくいうと厨房で発生する熱量であったり、客席の収容人数により必要な電気量が大きく異なります。
これが何を意味するのかというと、何も知らずに借りてしまったために後から電気工事代が余分にかかることになったり、オープン後の電気代が想像以上に高くなったりという問題を引き起こすということです。
電気に関して基本的な知識があるだけで店舗を借りる前に電気設備の検討が簡単にできるようになります。中学校の理科で習った電気についても今一度復讐をしてみましょう。
Contents
電気設備の前に電気についてのおさらい
まずは電気についておさらいをします。
電気を押し出す力を表す電力=V(ボルト)、電気の流れる量を表す電流=A(アンペア)
現在ご家庭で使用している組み合わせであれば、「100V」で30A~50Aの契約が一般的です。エアコン、乾燥機、電子レンジなど20年程前から比べると格段に電気を消費する生活様式になってきました。
最近ではガスに代わって高い発熱量を発揮する調理器具のIHヒーターの登場や、飲食店などで使用する業務用エアコンなどは100Vより電力の強い200Vが必要となってきています。
このことにより古い建築物に備わっている従来の電気設備では対応ができなくなっていて、根本的な設備の見直しが必要な場合があります。
昭和から平成へ電気設備の変遷
昭和の時代・・・単相2線式配線
100Vのみ使用可能な電気設備をさします 。後述の3相式のように一つのコンセントで200Vを同時に使うことが出来ないことと、電流でいえば「30A」が上限となるので機器の多い飲食店や力の強いエアコンの導入店舗には不向きな電気設備となります。もしこの状態で飲食店舗を借りたとすれば、電線の引き直し工事に大きな費用がかかることとなります。要チェックポイントです。チェック方法は後程解説します。
平成以降の時代・・・単相3線式配線
100Vの電気設備でありながら200Vも利用可能。電気容量もブレーカーを交換することにより増量することができますから大きな電気製品にも対応可能です。平成以降の建物であればまずこのタイプの電気設備が導入されています。
単相2線と3線の見分け方は簡単
単相2線と単相3線の簡単な見分け方は2つの場所を確認することで判断ができます。
①電力量計
ご自宅でも目にすることがある屋外に設置されている「電力量計」の中にその答えはあります。写真の赤線部分に表示がありますのですぐに見分けがつきます。
②ブレーカー
屋内にあるブレーカーボックスのフタを開けると区別がつきます。たいていブレーカーボックスは、
- 入り口ドア付近
- トイレ内
- 厨房の電気スイッチ上部
などにあります。分からない場合は不動産会社の方に聞いてみましょう。
下記のとおり、単相2線のブレーカーからは上下に2本の線が出ており、同様に単相3線のブレーカーからは3本の線が出ているので簡単に区別がつきます。
コンセントの形で流れている電力が異なることを知る
なぜ流れる電量の違いによってコンセントの形を変える必要があるのでしょうか。それは、間違った容量の電気器具をコンセントに差し込むことで過電流が発生し、最悪の場合発火する恐れがあるからなのです。つまり電気事故防止対策として考え出されたのです。
200V=動力電気設備の必要性はどこで判断するのか
これまで100Vと200Vを併用して使える単相3線を中心に話を進めてきました。
工事不要でどちらにも対応しますので便利であることは間違いありません。一方で使用電力に対する電気料金の問題が出てきます。
飲食店では、大型の冷凍冷蔵庫や製氷機、昼夜回り続けるエアコンなど電気の消費量が家庭用に比べ格段に多くなります。その分電気代が高くなります。そのコストを下げるために飲食店で導入されているのが「三相3線式200V」なのです。
業務用エアコン、冷蔵庫、スチームコンベクションなどはそもそも100Vでは作動しない厨房機器です。これらに対応しているのですが、従量つまり使った電気料に対する料金は、安く抑えられています。その分基本料金が4倍弱と高く設定されています。
一般的な考え方として、作動時間が長い厨房設備には最適ですが、使用頻度の低い機器用としては割高となるようにできています。
100Vと200Vどちらが得か具体例で試算してみましょう
業種や飲食店の規模で契約についての考え見ます。以下に必要な電力を導き出すロジックを考えてみました。契約電力の考え方は二つの組み合わせから成り立っています。
1.必用な厨房機器の消費電力 + 2.厨房、客席での発熱量
- 一般的に厨房で使用する機器は店舗の大きさ・席数によって決まるもので業種によってあまり大差は生じないものです。あくまでも電気の話です。
- コーヒー専門店やお寿司屋さんなどは家庭用空調の感覚で広さに対応していれば大丈夫です。
居酒屋 < 洋食店 < イタリアン・フレンチ < 中華 < 焼肉
の順番で発生する熱量が増えてゆきます。言い換えると契約するガスの容量が増えてゆく順番と同じです。
つまり、お店の中で発生する熱量を取り去るために必要なエアコンの電気代となってその差がハッキリと表れてきます。
次に、具体例をあげて100Vと200Vの必要性について検証します。
シミュレーションⅠ
15坪程度の「居酒屋」を例に検証します。
- 4ドア冷蔵庫400W+コールドテーブル300W×2台+冷凍庫400W+製氷機150W +食洗器200W=1,750W ⇒ 100Vで 「17.5A」・・・①
- 空調(エアコン)1馬力=3坪をカバーします。1馬力=1,000Wです。 客席側を10坪と想定すると3馬力=3,000W → 100Vで「30A」・・・②
①+ ② = 47.5A ≒ 「 50A 」 の契約が必要となります。
ここに電気設備ではなく、ハイカロリーバーナーの熱量、借りに10,000calが加わったとしましょう。その調理熱を取り去る為に大型の有圧扇が必要となります。当然ですが空調能力も上げないと暑くてたまりません。ゆえに有圧扇(シロッコファン)650W~1,000Wと更にエアコンをもう1馬力追加すると、最大で2,000w。つまりさらに「20A」が必要となり、同じ15坪程度の店舗でも「70A」必要だという結果になります。
シミュレーションⅡ
上記で消費電力が大きいのは、エアコン4,000Wとシロッコファン1,000Wの計5,000Wとなります。ではこれを200Vに変えるとどうなるでしょうか?
5,000W ÷ 200V = 25A となります。
100Vでは「50A」分の基本契約が200Vでは「25A」の半分で済みます。電気料金は、電流の大きさが大きくなればなるほど高くなる設定になっています。これを抑えることで料金が安く抑えられるという計算です。
ここで気を付けるのは、使用目的を指定して引き込み工事を行わなくてはならないのと、先にも書きましたが、基本料金が4倍弱と高く設定してありますので、常に使い続けている機種向けに限定してお使いください。
~まとめ~
電気工事は、電力会社と電気使用者で工事区分が分かれています。基本的に電力量計(前出写真参照)までは電力会社負担で工事をしてくれます。そこから先は電力使用者工事となります。
先程の200Vの電線工事でいえば軒先の電力量計までは電力会社で店舗の中は電力使用者となりますので、さほど工事代金はかかりません。
お勧めとしては、工務店さんに電気設備工事を発注するにあたり、長年の経験も踏まえて契約電力について、100Vと200Vのバランスについてアドバイスを求めるといいでしょう。