10~15坪の飲食店で、週に一度の予約限定『鍋の日』のPOPを指差して眺める来店客

2026年10月は、飲食料品3,153品目が値上げされ、平均値上げ率は10%です。

仕入れ価格が上がれば、メニュー価格への転嫁を考えるのは当然です。しかし、全品を一律に値上げしたり、料理の量を少しずつ減らしたりする前に、できることがあります。

それは、「高くても来店したくなる理由」を作り、店の売り方を組み直すことです。

特に10~15坪ほどの小さな飲食店は、客席数や一日に対応できる人数に限りがあります。安さで来店人数を増やすより、何を目的に来てもらい、セット全体からいくらの利益を残すのかを考える方が現実的です。

今回は、価格表を書き換える前に考えたい5つの取り組みを紹介します。

未来食堂が作ったのは「安さ」ではなく来店する理由

東京・神保町の未来食堂には、店を50分手伝うと一食分を受け取れる「まかない」という仕組みがあります。さらに、その権利をほかの人に残す「ただめし」も生まれました。

これは単なる無料サービスではありません。食事に「店へ参加する」「誰かを応援する」「次の人へ一食を渡す」という別の価値を加えています。

お客さんが人に話したくなるのは、安かった店だけではありません。「こんな仕組みの店があった」と伝えたくなる体験も、来店のインセンティブになります。

参考:未来食堂の「まかない」「ただめし」

飲食以外の用事を一つ加えた「喫茶ランドリー」

東京都墨田区の喫茶ランドリーは、カフェに洗濯機や乾燥機、ミシン、アイロンなどを使える「まちの家事室」を組み合わせました。ワークショップも開かれ、食事やコーヒーだけではない来店目的を作っています。

店舗規模が異なるため、10~15坪の店が設備をそのまままねる必要はありません。参考にしたいのは、飲食以外の用事や、人と人が関わる理由を一つ加える発想です。

例えば、月に一度の郷土料理の日、生産者を囲む予約会、本の交換棚、蔵元を招く地酒の会なら、小さな店でも取り入れられます。

参考:喫茶ランドリー開業時の紹介

1.全品を一律に値上げしない

最初に、メニューを「来店目的になる商品」「利益を支える商品」「常連客が価格に敏感な定番商品」に分けます。

すべてを同じ割合で値上げすると、価格を据え置く意味があった商品まで魅力を失います。新価格にする商品、内容を組み替える商品、据え置く商品を分けて判断します。

値上げ後の価格だけでなく、「この料理を注文するお客さんは、ほかに何を注文するか」まで確認することが大切です。

2.原価をかける料理は一品に集中させる

九州のクエ、厚岸のカキ、三陸の海産物、きりたんぽ鍋など、普段は食べる機会の少ない料理を、店を選ぶ理由にします。

すべての料理を豪華にするのではありません。「この料理を食べるために予約する」という一品を作り、ほかの料理との組み合わせで利益を確保します。

原価を広く薄くかけるより、看板となる一品へ集中させた方が、お客さんにも違いが伝わりやすくなります。

ただし、新しい取り組みを最初から毎日続ける必要はありません。まずは月に一度の「鍋の日」や、週に一度の予約限定日から始めます。予約数、仕入れ量、厨房への負担を確認し、継続できると判断してから開催回数を増やします。

3.希少食材は予約制にして廃棄を防ぐ

予約制は集客方法であると同時に、仕入れ量を確定させる仕組みです。

  • 予約の締切日
  • 最低人数
  • 提供する曜日と一日の組数
  • キャンセル条件
  • 必要に応じた事前決済

ここまでを一つの商品条件として示せば、高価な食材の余剰仕入れを抑えられます。限定数をあおるためではなく、売れる量だけ仕入れるための予約です。

4.人数と時間を限定して回転数を設計する

「4名以上」「18時と20時30分の二部制」「2時間限定」など、人数と開始時間も予約商品の一部にします。

ただし、時間を区切るだけでは客席は回転しません。同時に作れる料理数、厨房内の動線、配膳方法、会計のタイミングまで合わせて設計します。

10~15坪の店では、満席を目指すより、厨房が滞らず、決めた時間内に満足して帰ってもらえる人数を知ることが先です。

5.主役料理ではなく、セット全体で利益を見る

高原価の鍋や魚料理に、前菜、締めの料理、デザート、地域の地酒などを組み合わせます。

主役料理だけで十分な利益を取ろうとすると、価格が高くなりすぎます。一品ごとの原価率ではなく、セット一人分の粗利と、客席一時間当たりに残る利益で判断します。

「主役料理はお値打ちに感じる。一方でセット全体では利益が残る」という設計ができれば、単純な値上げとは異なる価格の納得感を作れます。

まとめ|値上げは店の売り方を整えた後に決める

原価が上がれば、値上げが必要になることはあります。しかし、価格表を書き換えることが最初の仕事ではありません。

  • 誰に来てもらうのか
  • 何を来店目的にするのか
  • どの商品へ原価を集中させるのか
  • どの予約条件なら廃棄を防げるのか
  • セット全体でいくらの利益を残すのか

これらを決めた後に、新しい価格を考えます。

一律値上げをする前に、まず来店理由と利益の残し方を組み直す。小さな飲食店だからこそ、価格競争ではなく「この店へ行く理由」を明確にすることが、原価上昇を乗り越える一歩になります。

参考:帝国データバンク「食品主要195社 価格改定動向調査」

短期的な季節販促については、関連記事「小さな飲食店が値引きせず売上と利益を残す5つの対策」もご覧ください。