
「飲食店が売上をつくるのは夜」という常識が、少しずつ変わり始めています。
外食業態の朝食市場は2025年に5,347億円となり、前年から3.2%増加。コロナ前の6年前と比べると24.5%増え、調査開始以来の最高額になりました。
すべての飲食店が深夜営業をやめているわけではありません。しかし、深夜まで営業して少ない客を待つよりも、まだ競合の少ない朝の時間帯に新しい需要を探す店が増えています。
1.朝定食やモーニングを始める店は、なぜ増えているのか?
理由の一つは、深夜営業の採算が合いにくくなっていることです。
午後10時から午前5時まで働く従業員には、原則として25%以上の深夜割増賃金が必要です。人手不足が続くなか、深夜に働くスタッフを確保することも簡単ではありません。
一方、朝は夜に比べて客単価が低くても、調理工程を減らしたメニューを提供しやすく、営業の仕組みを単純にできます。
既存の食材と厨房設備を使い、短時間で提供できる商品に絞れば、比較的少ない人数でも営業できます。夜の売上を朝だけで置き換えるのではなく、店全体の営業時間と採算を見直す動きと考えたほうがよいでしょう。
2.朝活、働き方の変化、猛暑も朝営業を後押しする
朝の需要が増えている背景には、生活時間の多様化があります。
厚生労働省によると、フレックスタイム制が適用される労働者の割合は、2018年の約8%から2024年には約12%へ上昇しました。テレワークも定着し、全員が同じ時刻に出勤する働き方ではなくなっています。
出勤前に運動や勉強をする「朝活」、混雑を避けた早朝出勤など、朝の過ごし方も細分化しています。
さらに、記録的な猛暑も無視できません。2025年の日本の夏は、1898年の統計開始以降で最も暑い夏となりました。気温が上がる日中を避け、比較的涼しい朝に外出や用事を済ませたいという行動が、今後さらに広がる可能性があります。
3.朝食のリピート客が、店の経営を安定させる
朝営業の強みは、大きな売上を一度につくることではありません。
朝食は生活習慣に組み込まれやすく、気に入った店を繰り返し利用してもらえる可能性があります。2026年の朝食調査でも、6割以上が「ほとんど毎日」朝食を取り、45.5%が「毎日決まったメニューを食べている」と回答しています。
夜の宴会客は一度に大きな売上をつくってくれますが、次回来店の時期を予測しにくい面があります。一方、朝食は客単価が低くても、「平日の出勤前に週3回来る」といった利用が期待できます。
毎朝30人が来店する状態をつくれれば、その売上で家賃、水道光熱費、設備費など、店を開けているだけで発生する基礎的な支出の一部を賄えます。昼と夜の売上をすべて利益に近づけるわけではありませんが、毎月の売上予測は立てやすくなります。
朝の常連客を増やすことは、店の売上に「毎日の土台」をつくることなのです。
4.すぐに始められる朝営業対策
朝営業を試すとき、最初から営業時間を大幅に延ばす必要はありません。
まずは平日の午前7時から10時まで、2週間程度のテスト営業を行います。メニューは3種類ほどに絞り、注文から5分以内に提供できる形を目指します。
例えば、既存の食材を使った朝定食、おにぎりとみそ汁、トーストと卵料理などです。コーヒーやみそ汁をセットにして、選ぶ手間を減らすことも大切です。
回数券やデジタルスタンプを用意する、5回来店するとドリンクをサービスする、曜日ごとに小さなおかずを変えるといった仕掛けも、再来店のきっかけになります。
営業時間の変更は、Googleマップ、店頭、SNSで事前に告知します。売上だけでなく、客数、提供時間、人件費、廃棄量、再来店数を記録し、朝営業が基礎的な支出をどこまで賄えているかを確認しましょう。
5.オフィス街と住宅地、平日と休日では需要が変わる
オフィス街の平日は、スピードと持ち運びやすさが重要です。
おにぎり、サンドイッチ、弁当、コーヒーなどを事前注文できるようにし、受け取り時間を短くします。会議用の朝食や企業単位の定期注文も狙えます。
「毎週火曜日に10食」といった法人注文を獲得できれば、来店客数に左右されにくい売上になります。
一方、土曜日や日曜日のビジネス街では、平日とは違う光景が見られます。営業しているカフェチェーンに、近隣に住む高齢者や家族連れが集まり、朝から賑わっていることがあります。
休日のビジネス街は、必ずしも「人がいない街」ではありません。通勤客がいなくなる代わりに、平日は目立たなかった地域住民が姿を現します。
高齢者には量を抑えた朝定食や温かい飲み物、家族連れには子どもと分けやすいパンや卵料理、少し長く過ごせる席が求められます。平日は「時間を買うサービス」、休日は「朝をゆっくり過ごすサービス」と考えるとよいでしょう。
住宅地では、在宅勤務者、子育て世帯、シニア層を想定し、店内で落ち着いて食べられる朝定食を用意します。土日は午前11時頃まで楽しめるブランチに切り替える方法もあります。
立地だけで客層を決めつけず、曜日と時間帯によって街を歩く人がどう変わるかを観察することが大切です。
~まとめ~ 朝営業は、営業時間を増やすことではない
深夜営業から早朝営業への転換は、単に営業時間を前倒しすることではありません。変化した生活時間に、店の営業を合わせ直す経営判断です。
まずは短期間、少ないメニューで試してみる。立地と曜日に合ったお客様を見つけ、繰り返し利用してもらえる形をつくる。
大きな売上を一度に狙う夜営業に対して、朝営業は毎日の小さな売上を積み重ねる営業です。その積み重ねが基礎的な支出を支え、飲食店経営を安定させる新しい柱になるかもしれません。





