「もう少し席数があれば、もっと売上が増えるのに」

飲食店を経営していると、一度はそう考えるものです。これからお店を始める方も、事業計画を作るときに、席数へ客単価と回転数を掛けて売上を計算するのではないでしょうか。

しかし、席を増やしただけでお客様が増えるわけではありません。席数はあくまでお客様を受け入れられる「上限」です。お客様が来なければ、使われない席にも毎月賃料がかかり、広い店を動かすための人件費や光熱費も発生します。

以前の記事「【飲食店狭小店舗】たった10坪でも成功する飲食店にはこれだけの理由がある」では、二つの実例と店主の人柄、満室稼働率から10坪店の強さを考えました。

今回は視点を変えます。成功事例ではなく、坪月商、人時売上高、追加面積の損益分岐客数という三つの数字と、ワンオペを成立させるレイアウトから、「なぜ10坪が個人飲食店の現実的な回答になるのか」を考えてみたいと思います。

なお、滞在時間が長く客単価が高い高級店、宴会や団体利用を中心とする店、ファミリー客を中心とする業態は前提が異なります。今回は、店主が調理の中心となるラーメン店、カレー店、小料理店、居酒屋、立ち飲み、カウンタービストロなどの小規模店を想定します。

席数を増やせば売上も増えるという飲食店の思い込み

飲食店の売上計画では、次の計算式がよく使われます。

席数 × 回転数 × 客単価 × 営業日数 = 月間売上

計算自体は間違いではありません。ただし、この式で分かるのは、すべての席を想定どおりに使えた場合の売上です。店の前を通る人の数、実際の来店客数、曜日や時間帯による需要の差は含まれていません。

24席あるから24人来るのではありません。12席の店を24席に広げても、来店客数が1日30人のままなら売上は変わりません。

一方、賃料はお客様が来ない日にも発生します。厨房や客席が広くなれば、移動距離、空調負荷、清掃範囲も増えます。一人では店全体に目が届かなくなり、追加のスタッフも必要になります。

つまり、席数は増えても、需要が増えなければ利益は減るのです。

10坪店と20坪店、来店客数が同じなら利益はどう変わる?

分かりやすくするため、10坪と20坪の飲食店を比較します。以下は物件の広さによる違いを見るための試算です。

  • 客単価:2,500円
  • 来店客数:1日30人
  • 営業日数:月25日
  • 月間売上:187万5,000円
  • 食材原価率:32%
  • 坪当たり賃料:月2万円
  • 10坪店は店主一人、20坪店は追加スタッフを月200時間、時給1,300円で雇用
比較項目10坪店20坪店
想定席数12席24席
1日の来店客数30人30人
月間売上187万5,000円187万5,000円
食材原価60万円60万円
賃料20万円40万円
追加スタッフ人件費0円26万円
上記費用控除後107万5,000円61万5,000円
※比較を単純化するための概算です。店主自身の報酬、光熱費、消耗品費、決済手数料などは含んでいません。

売上が同じなら、20坪店は10坪店より毎月46万円、年間では552万円も利益が少なくなる計算です。

もちろん、広い店が悪いわけではありません。広くしたことで客数が増え、増えた固定費以上の粗利を生み出せるなら、20坪を借りる意味はあります。

では、20坪店が増えた費用46万円を回収するには、何人のお客様が必要でしょうか。

客単価2,500円、原価率32%なら、お客様一人から得られる食材原価控除後の粗利は約1,700円です。

46万円 ÷ 1,700円 = 月約271人

月271人 ÷ 25営業日 = 1日約11人

つまり20坪を選ぶなら、「席が12席増える」だけでは足りません。毎日11人多く来店する根拠が必要です。その根拠がなければ、増えた席は売上ではなくコストになります。

10坪の飲食店を評価する三つの指標

1.坪月商―1坪がいくらの売上を生んだか

坪月商は、月間売上を店舗面積で割って求めます。

坪月商 = 月間売上 ÷ 店舗坪数

先ほどの187万5,000円の売上なら、10坪店の坪月商は18万7,500円、20坪店は9万3,750円です。同じ売上でも、10坪店は20坪店の2倍の空間生産性があります。

「もっと広い物件」を探す前に、いま想定している売上を面積で割ってみましょう。坪月商が下がる計画なら、その低下を補えるだけの新規客が必要です。

2.人時売上高―1人が1時間でいくら売ったか

チョット聞きなれないかもしれません。人時売上高は、売上を店主とスタッフの総労働時間で割る指標です。

人時売上高 = 売上 ÷ 店に投入した総労働時間

店主が月250時間働く10坪店なら、人時売上高は7,500円です。20坪店で店主250時間にスタッフ200時間を加えると、総労働時間は450時間となり、人時売上高は約4,167円まで下がります。

人を減らせばよいという話ではありません。重要なのは、広くしたことで発生する案内、配膳、下膳、清掃、会計の仕事が、本当に売上増加につながっているかを確認することです。

3.追加面積の損益分岐客数―広くするために何人必要か

追加面積の損益分岐客数とは、店を広くしたことで増える賃料や人件費を、何人のお客様で回収する必要があるかを示す数字です。

追加面積の損益分岐客数 = 増加する固定費 ÷ お客様一人当たりの粗利

この人数を「立地がいいから」「席が増えるから」という期待だけで集められると考えてはいけません。現在の店で入店を断っている人数、予約を受けられなかった件数、時間帯別の客数など、実際の数字から判断します。

10坪でワンオペを成立させるレイアウト

10坪ほどのカウンター中心の飲食店でワンオペ営業する日本人店主
10坪の空間を無駄なく使い、少人数で営業する飲食店のイメージ

10坪は約33平方メートルです。ワンオペ店で重要なのは、狭い空間にできるだけ多くの席を詰め込むことではありません。店主が調理、提供、下膳、会計までを無理なく管理できることです。

目安として、厨房、収納、トイレなどに4~4.5坪、客席に5.5~6坪を配分し、カウンターを中心に10~12席程度とします。業態によっては、無理に15席を作るより、12席を一人で確実に回した方が利益は残ります。

  • 厨房は直線型、L字型、コの字型を基本にし、振り返るだけで主要機器へ手が届くようにする
  • カウンターを配膳台、下膳台、会計場所として兼用する
  • 調理場所から入口とすべての客席が見えるようにする
  • 料理の提供と空いた皿の回収を、2~3歩以内で完結させる
  • 食器返却口をシンクや食器洗浄機の近くに設ける
  • 水、箸、調味料、おしぼりなどは業態に応じてセルフ化する
  • 収納は壁面、吊り戸棚、カウンター下を使い、床に物を置かない
  • テーブル席を作る場合は、4人掛けではなく移動できる2人卓を基本にする
  • メニュー数を増やしすぎず、食材と調理工程を共通化する

ワンオペが成立するかどうかは、店主の頑張りではなくレイアウトで決まります。店主が何度も客席を回り、厨房とレジの間を往復しなければならない店は、10坪でも広すぎます。

10坪は「小さく我慢する店」ではない

10坪というと、狭い、席数が少ない、売上の上限が低いと考える方がいます。しかし個人経営の飲食店では、売上の最大値よりも、利益を残せる売上を安定して続けることの方が重要です。

12席の店に1日30人来店するなら、必要な回転数は2.5回です。24席の店で同じ30人なら1.25回転にすぎません。見た目に余裕はあっても、その余裕のために毎月高い賃料と人件費を支払うことになります。

反対に10坪店なら、店主の目が全体に届き、料理や接客の変化にも気づけます。空席が出た時間は仕込みや清掃に使い、混雑時は短い動線で集中してお客様へ対応できます。

小さいこと自体が強みなのではありません。需要以上の面積と固定費を持たないことが強みなのです。

10坪に向く業態、向かない業態

10坪店はすべての飲食業態に適しているわけではありません。

10坪に向きやすい業態

  • ラーメン、そば、うどん、カレーなど、メニューと調理工程を絞りやすい店
  • 寿司、小料理、焼き鳥、立ち飲みなど、カウンター接客と相性がよい店
  • 一人客、二人客が中心の居酒屋やカウンタービストロ
  • テイクアウトを組み合わせ、客席以外でも売上を作れる店

慎重に検討すべき業態

  • 長時間滞在する高級店やコース料理店
  • ファミリー客、宴会、団体利用が中心の店
  • 大きな厨房機器や大量の食材保管が必要な店
  • 調理、ドリンク、接客を複数人で分担しなければ成立しない店

物件の広さは、夢の大きさで決めるものではありません。業態、客単価、滞在時間、必要な厨房設備、店主一人が処理できる注文数から逆算して決めるものです。

~まとめ~10坪は利益を残すための現実的な回答

席数を増やせば売上が増えるという考えは、すべての席を埋められる需要があって初めて成立します。

お客様が増えないまま店だけを広くすれば、増えるのは賃料、人件費、光熱費、清掃範囲です。使われない席は売上を生みませんが、その席が占める面積には毎月家賃を支払わなければなりません。

物件を選ぶときは席数だけではなく、次の三つを確認してください。

  1. 1坪がいくらの売上を生むのかという「坪月商」
  2. 一人が1時間でいくら売るのかという「人時売上高」
  3. 広くするために何人の新規客が必要かという「追加面積の損益分岐客数」

10坪という広さは、繁盛を約束する魔法の数字ではありません。しかし、店主一人が管理できる客数と、利益を圧迫しない固定費のバランスを考えたとき、多くの個人飲食店にとって最も現実的な回答になります。

最初から大きな店を持つ必要はありません。まず10坪で、無駄を排除し、店主一人でも高い生産性を維持できる店を作る。その成功モデルができてから、二店舗目や広い店を考えても遅くないのです。