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飲み放題禁止の危機?厚労省の狙いとは アルコール健康障害対策推進室 H29年4月開設
平成29年4月1日、厚生労働省内に「アルコール健康障害対策推進室」なる部署が開設され波紋を呼んでいます。少し前にネットで話題になっておりましたのでご存知の方も多くおいでのことと思います。折しも今国会で通過を目論む同省が進めるタバコの規制法案「受動喫煙防止法」が連日のように取りざたされているため、今回のアルコール対策推進室も同様の規制を狙ったものとして受け止められています。はたして、ネットでささやかれる自動販売機でのアルコール販売禁止や公共の場での飲酒禁止、飲食業界が注目する飲食店での飲み放題規制など本当に法案化されるのかいくつかの視点で検証してみたいと思います。
話題の震源地
この話題をいちやく日本全国に知らしめたのはツイッターのハッシュタグ「#飲み放題禁止」でした。瞬く間に広がった震源地を遡ってゆくと週刊誌のWEB記事が火付け役であったことが分かります。その中で日本がアルコール規制後進国であることをうたい、海外が公共の場で飲酒を禁止しているのに対し日本ではむしろ常識とされていることや、桜の季節の花見酒や学園祭での飲酒をとらえて驚きを隠さない外国人の話を載せています。この話について、アルコールをたばこに置き換えて読むと受動喫煙防止法の内容とそっくりになります。たばこ同様以前からアルコール規制により医療費の削減を目論む厚生労働省は本気で法案成立の為に動き出したのではないかと受け取られたようです。
日本の飲酒に関する数字をチェック
ここで日本における飲酒の状況を確かめておきたいと思います。
月に1日以上飲酒をする人のパーセンテージですが、平成15年の調査では、男性69.3%、女性33.3%であったものが、平成24年になると男性67.3%、女性33.2%とほぼ横ばいです。ところが、週3日以上、1日1合以上飲酒する人のパーセンテージになると別の姿が見えてきます。平成16年に男性38.2%、女性7.1%だったのが平成26年には男性34.6%、女性8.2%と男性の低下傾向にあることが分かっています。
未成年者の飲酒についても興味深い数字が出ています。平成8年に行われた全国を対象にした調査なのですが、1ヶ月に1日以上飲酒をした人の割合で中学生男子29.4%、中学生女子24.0%、高校生男子49.7%、高校生女子40,8%(意外と多いと感じますが)だったのが、平成24年の調査では、中学生男子7.4%、中学生女子7.7%、高校生男子14.4%。高校生女子15.3%と大きく減少していることが分かります。同様の傾向は、成人の飲酒習慣のある人でもその割合は減少傾向にあるようです。つまり厚労省が心配するほどアルコールに対する欲求は増えていないというのが実態なのです。ただ心配な数字も出ています。依存症を招く多量の飲酒をする人の割合はあまり改善されていないと言います。それどころか平成27年の経済協力機構の調べによると、日本においては「最も飲酒が多い20%の人々が、全てのアルコール消費量の70%近くを消費している」と報告がなされているように一部ではアルコール依存による患者数は悪化の方向にあります。
アルコールによる社会影響
厚労省は数多くのデータを出して飲酒が及ぼす社会への影響を示しています。例えば、運転免許証を取り消された人の講習会で調査をした結果を出しています。飲酒運転で検挙された人の約3割はアルコール依存症の疑いがあるというのです。また、配偶者に対する暴力が原因で加害者となるDVの研究では、約4割の人が飲酒に関して問題を有していると言います。更に、受刑者を対象にした調査では、多量飲酒(日本酒換算でほぼ毎日3合以上)の割合が23.3%という結果が出ています。
もう少し広くアルコールが社会に与える影響を見てみると次のような数字が出てきます。飲酒による事故、労働損失は年間推定3兆1000億円との数字が出ています。これにかかる医療費をあわせると4兆1500億円もの額にのぼります。アルコール飲料の国内市場規模が3兆6000億円と言われる今、厚労省の理論を借りるならば、経済効果よりも社会損失額の方が大きいという結論になるようです。
厚生労働省の方針
そもそも内閣府時代に策定されたアルコール健康障害対策推進基本計画を厚生労働省が引き継ぐためにその受け皿として作ったのがアルコール健康障害推進室なのです。
その目的は飲酒や廉価販売の規制と言った対処的なものではなく、未成年の飲酒に関する啓蒙や健康診断での保健指導、アルコール依存に関する早期発見プログラムに厚生プログラムを充実させようという狙いが色濃く読み取れます。どうやらたばこをめぐる受動喫煙防止法と混同され、とんだトバッチリを受けた格好になっています。
アルコール健康障害対策推進室の限界
たばこと同様にWHO=世界保健機関からの外圧が今回もありますが、決定的に違うことが一つあります。たばこの場合は2020年に開催される東京オリンピックに付帯してIOC=国際オリンピック委員会の存在があります。彼らは開催国にたばこに関しては絶対的な条件を要求しており多分その要求は飲まざるを得ないと思われます。一方アルコールに関するWHOによる2010年の採択「アルコールの有害な使用を減らすための世界戦略」は加盟国に対する法的拘束力はないのであくまでも努力目標の一つの基準を示したものにすぎません。
また、同省のコメントにもありますが、もし酒税を引き上げてアルコールの廉価販売の抑制や消費量の削減を目指すとなると国税庁の管轄になりますし、そもそも飲み放題を禁止したり自動販売機でのアルコール飲料販売禁止となれば経済産業省が黙っていないはずです。どう考えても今ネットで騒がれている規制が布かれるとは考えられないのが現実です。
大手広告代理店に勤める若い女性の自殺が日本の働き方を大きく変えようとしています。同じように学生や未成年者の多量飲酒が急性アルコール中毒など死に至らしめる痛ましい事件が今後も続くようであれば、少子化に飲酒人口の減少の中で大きな社会問題として取り上げられるのは間違いないでしょう。そうなれば、一夜にして今のアルコール・飲酒に対する風向きは変わりかねません。飲食店側は今回設置された推進室が言う啓蒙策に耳を傾けて未成年者に対するアルコールの提供を避け、多量の飲酒を誘引するような企画も避けるべき時期に来たのかもしれません。