2016年6月改正前までの風営法では、その対象となる店舗の営業時間は原則午前0時と定められていました。銀座の高級クラブも六本木のキャバクラやクラブも同様です。皆さん違和感ありませんか。
DJがいるクラブのピーク時間は夜中の2時、3時です。これは一体どうなっているのでしょうか?素朴な疑問が残ります。
そもそもこの風営法、1948年の施行です。戦後の混乱期にダンスホールやカフェーと称する飲食店が売春の温床となっていたころの法律です。
当時取り締まり対象はダンスを目的とした営業店に向けられました。時は流れて、現在の風俗と取り締まり対象がズレて久しい中ようやく2016年に法改正となったのです。
コロナ前、年間3,000万人を超える観光客が訪れるようになった日本。観光立国の仲間入りです。一時的に減った観光客も、2023年以降にはまた海外からの観光客が更に増えると予想されます。
これまで見て見ぬふりをしてきた風営法対象店の深夜営業について規制の緩和と一方で規制の強化を行い増え続ける観光客が利用しやすいよう、また日本の風俗が低俗化しないよう考えられたものとなったのです。
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改正後のキーワードはやはり「ダンス」!
先に規制が緩和された方からおさらいします。
それまでダンスという言葉が付いていただけで風営法の対象とされてきたダンス教室やダンスホールなど純粋にダンスのみを対象とする営業や施設は改正後規制対象から除外されています。
ポイントは、「10ルックス超」と「酒類提供無し」です。
同じダンスでも飲食を伴う施設、通称クラブについて確認します。
タイトルにあるように、室内の明るさが「10ルックス超」であることと営業スタイルが「酒類提供無し」など、この2つの条件をクリアしていれば、今後は風営法の規制を受けることなく飲食店として午前0時以降も堂々と営業が出来ます。
もちろん風営法の許可も必要ありません。ところでこの「10ルックス超」という部分ですが少々解説が必要です。クラブと言えば様々な光の演出でフロアは暗いのか明るいのか区別がつかない状態です。これを10ルックス=概ね映画館で予告映画を見ている時の明るさで営業しなさいと条件が付きました。少し離れていても人の顔を識別できる程です。
では、もう一つの条件である「酒類」について提供する場合はどうでしょうか。
その場合改正時新たに設けられた「特定遊興飲食店営業」と分類され、「許可制」となります。
この特定遊興飲食店業の構造要件というものがありこれが結構曲者です。
①客室の床面積は、1室の床面積を33平方メートル以上とすること。
②客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと
③善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと。
④客室の出入口に施錠の設備を設けないこと。ただし、営業所外に直接通じる客室の出入口については、この限りではない。
⑤営業所内の照度が10ルックス以下とならないように維持されるために必要な構造又は設備を有すること。
⑥騒音又は振動の数値が条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること。
①と②は明らかにVIPルームやパーティションで仕切られたボックス席をターゲットにしています。額面通りなら大部屋スタイルのクラブしか認められないこととなります。⑤の10ルックスを測定する場所も決まっています。この構造要件をすべて満たしたうえで、ダンスフロアではなく客席つまり飲食スペースでの測定だと指定しています。
更に、「人的欠格事由」に該当する申請者(経営者)は許可が下りないとされました。かいつまんで説明するとこうです。
・破産者で復権を得ない者
・1年以上の懲役若しくは禁固の刑に処され、又は一定の犯罪を犯して1年未満の懲役若しくは罰金の刑に処され、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなってた日から起算して5年を経過しない人
・集団的に又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれのある人
・風俗営業の許可を取り消されて5年を経過しない人(法人の場合、当時役員だった人)
いろいろな人物像を想定して決めたのでしょうが、「おそれのある人」まで入っています。いったいどのように判断するのでしょうか?
まだあります。上記に加え「立地要件」つまり地域規制がかかりました。これは自治体がそれぞれに条例で営業時間や営業地域を制限できるとしています。
つまりこうです。風営法の申請を必要としない特定遊興飲食店営業が出来る場所はかなり制限されると言うことです。
警察庁生活安全局長のコメントでは、東京であれば、東京都公安委員会が告示する午前0時以降でも営業を延長できると定めた営業延長許可地域が基準となると言っています。
クラブでそのエリアを見てみると例えば東京都の港区では、六本木は1丁目から7丁目まですべて含まれますが、麻布十番、西麻布は指定エリアから外れています。つまりクラブの中心地は蚊帳の外、従来の風営法の下で営業しなさいと言うことなのです。
「10ルックス以下」のクラブはどうしている?
低照度飲食店としてこれまで同様風営法の許可が必要になります。しかしです。風営法を改正して特定遊興飲食店営業という新しいカテゴリーまで作って、今まで通り営業時間は見て見ぬふりを警察はしてくれません。ましてや営業延長許可地域外であったならば一層締め付けが厳しくなります。結論は、酒類を提供しないという選択肢しかなく、事実上のクラブ潰しなのです。
特定遊興飲食店営業の「遊興」の範囲とは
改正後に新設されたカテゴリーですが、なにもクラブだけに限ったものではありません。その解釈如何ではカラオケもスポーツバーも許可制になりかねません。そのあたりの線引きを確認したいと思います。
特定遊興飲食店営業に該当しないものとして4つの要件が上がっています。
- 低照度飲食店営業に該当しないもの
- 深夜は営業しないもの
- 深夜は酒類を提供しないもの
- 深夜は客に遊興をさせないもの
さて4番目にあります「遊興をさせないもの」の「遊興」とはなんでしょうか。以下の通り具体例が示されています。
①不特定の客にショー、ダンス、演芸その他の興業等を見せる行為
②不特定の客に歌手がその場で歌う歌、バンドの生演奏等を聴かせる行為
③客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為
④のど自慢大会等の遊戯、ゲーム、競技等に不特定の客を参加させる行為
⑤カラオケ装置を設けるとともに、不特定の客に歌うことを勧奨し、不特定の客の歌に合わせて照明の演出、合いの手等を行い、又は不特定の客の歌を褒めはやす行為
⑥バー等でスポーツ等の映像を不特定の客に見せるとともに、客に呼び掛けて応援等に参加させる行為
要約すると、飲食店側が客に対して盛り上げる行為をする催しは全て遊興と見なされるようです。言ってみれば、DJのいない曲だけ流れているクラブに映像だけを流すスポーツバー、客が自分の歌を淡々と歌うカラオケとなります。落語なども客の反応を見ながらの話芸ですから遊興に該当します。こうなると生演出はすべて難しいと言わざるを得ませんが、こればかりは警察に行き生活安全課で話を伺うしかありません。