まん延防止措置が明けたオフィス街のランチ時、街ではお客さん同士の熾烈な椅子取りゲームが戻りつつあります。
晴れた日なら近くの混雑店を避けてヒト気がまばらになる場所まで足を延ばしりだとか、雨の日は人よりちょっと先にオフィスを抜け出し近場の店にダッシュするだとか日々のご苦労が戻ってきたということです。
今回は、同じ業態でありながら価格帯やスタイルの違うお店が軒を連ねることが当たり前の現在、お客さんの取り合いを繰り広げながらどのように売り上げを上げて行くのか価格設定と回転数から検証してみたいと思います。
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そば一杯 400円と850円でランチ勝負
ここでシミュレーションをしてみたいと思います。軒を並べる蕎麦屋さんが舞台です。双方の店のキャパシティーはともに「10席」(着席・立食とも)とします。※今回は着席時の満室率は除外して考えます。
A店:蕎麦一杯 400円 立ち食い
B店:蕎麦一杯 850円 着席
この条件でランチタイム1時間の売上シミュレーションです。
ここで両店の注文から料理出されるまでの時間やお客様がそばを食べる時間など入店から退転までの状況を検証してみましょう。
A店の場合(立ち食い店)
立ち食い店の定番である券売機を設置しています。さらに券売機と厨房が連動しており、券売機で注文された情報は厨房にも同時に伝わるシステムです。配膳から下膳まですべてお客様がこなすセルフスタイルです。
食券購入から注文まで「1分」 ⇒ 料理にかかる時間「1分」 ⇒ 食べる時間「5分」=(トータル7分)です。
B店の場合(着席店)
こちらはの注文から、料理を運ぶまですべて店員がおこなうフルサービス店です。会計も最後にレジで済ませます。
入店から注文まで「2分」⇒料理にかかる時間「5分」⇒食べる時間「10分」=(トータル17分)です。
比 較
A店の60分間の回転数は、60÷7= 8.6回転
B店の60分間の回転率は、60÷17= 3.5回転
これに席数(立食での収容可能数)をそれぞれ「10」を乗じて、蕎麦の単価を掛け合わせてみましょう。
A店:8.6回転 × 10席 × @400円 = 34,400円
B店:3.5回転 × 10席 × @850円 = 29,750円
A店に軍配が上がります。
B店(着席店)が売り上げをあげる具体策
B店では入店から食べ終わるまでに17分時間がかかっています。さらにはお会計の時間までかかります。ここから売上を伸ばすには注文から料理を出すまでの時間短縮しかありません。なぜならお客様に早く食べて下さいとお願いするわけにもいきませんし、時間を短くするために量を減らすわけにもいきません。
ところで、老舗の蕎麦屋さんでもランチ時だけは食券機を使うところがあります。その理由のほとんどは、注文とお会計に人を割くよりも、料理を運んだり下げたりの労力に割くという判断です。当然の判断です。
さらに、この食券機と厨房を繋ぐシステムをA店のように導入したとすればどうでしょうか。注文を悩む時間が1分削減され、注文を厨房に伝達する時間を1分縮められることも十分に可能です。僅か2分の削減ですが長い目で見れば大きな意味をもちます。
回転数は3.5回転から4回転(60÷15)に上ります。結果売り上げは、
4.0回転 × 10席 × @850円 = 34,000円
1時間の売上が4,250円アップし、A店とほぼ同じになります。このアップ分を月単位で見れば、20日稼働で85,000円、年単位で102万円もの増収となります。小型の食券機の購入費は半年足らずで捻出できる計算です。
A店(立ち食い店)がさらに売り上げを伸ばす具体例
ではA店が今以上に売り上げを伸ばす余地はあるのでしょうか。仮に今以上に料理時間を短くしても人が食べる時間が変わらない限り10回転が限界となります。実際、調理時間を1分以下にしたり入店から注文までを1分以下にするというのは現実的ではありません。A店は8.6回転が限界に近い状態です。もし8.6回転の中で料理をする能力にまだ余裕があるとするなら他に手立てはあります。それは、「テイクアウト」お持ち帰りです。
駅前立地の立ち食い蕎麦店には決まってテイクアウト用の小窓があって、立ち食いの列に並ぶ男性陣を横目にテイクアウトの窓口には女性が列をなしている光景を見かけます。このテイクアウト、これまでの計算式で言えば収容可能人数10人を11人、12人と増やすことと同じです。また限られた厨房で、店内の注文をさばく料理人とテイクアウトの注文をさばく料理人を分けるなどの工夫がなされています。
お客様が長居するお店で回転数を上げるには
イタリアンやパスタ専門店、ハンバーガーなど居心地が良くてつい長居したくなるお店が沢山んあります。飲食店側も心地よく食事をして頂くコンセプトで店造りをしているはずですからその意味では成功です。しかしどう頑張っても回転数が上らないと頭を抱えることもあろうかと思います。あるお店が行った対策をご紹介します。
食後のコーヒーを止めた
ただ止めるだけだとサービス低下になります。下手をすると今まで来てくれていたお客様が離れてしまうかもしれません。そのお店は、食後のコーヒーをお客様の選択に委ねるセルフのテイクアウトにしたのです。
お客様が自由に注いで持ち帰りが出来るので、お店のオペレーション的にも淹れる、出す、下げるという工程が無くなりました。
実際やってみて分かったことが、全員がコーヒーをテイクアウトされないという結果でした。カップ代がかかる以上にコスト削減効果があったと言います。
ランチタイムにあわせてレイアウト変更とは
ランチタイム時は、複数のお客様に交じってお一人で来店される方が多いことに気づいたご主人は、ランチタイム時だけ机を寄せて大きなテーブルを一つ作ることを考え出しました。それまで二人掛けのテーブル席にお一人ずつということが当たり前だった為、空いている一人分スペースを極力無くしてしまおうという作戦です。
大テーブルに順番に一人ずつお座り頂くことでこれま以上に来店者数が増えたそうです。つまり「満室稼働率が上がった」ということになります。また実際に、二人掛けに一人で座っていた時より大テーブルに座るほうが滞在時間が短くなったと言います。まさに一石二鳥のアイデアです。
実はこのお話後日談があって、ピークを過ぎた13時以降では大きなテーブルよりもとのレイアウトの方が来店されるお客様の数が多いことにも気づいたそうです。
~まとめ~
価格設定と回転数の関係について今回はご説明いたしました。後半の稼働率の話で言えば、仮に最初の設定、3.5回転 × 10席 × @850円 = 29,750円で回転数をあげずに売り上げを伸ばすとすると席数を増やすことで解決ができます。
仮に2席増えたとしたらどうでしょうか。3.5回転 × 12席 × @850円=35,700円です。回転数を上げる以上の売上となりました。
実際、どちらを選択するのかはそれぞれの飲食店が抱える事情によります。従業員の数、業種、レイアウトなどです。それぞれの要素を考えて一番無理のない方法を選ぶことで売上増につながります。ともかく1分、1席を無駄にしないことが重要です。