飲食店のカウンターで電卓と資料を使い、休業に備えて支払いを確認する店主

「借入れの返済がある」「休めば常連さんが離れる」。朝の仕込みから深夜の片付けまで働き、体調が悪くても店を開ける。独立して間もない店主ほど、休む決断は重いものです。

しかし、店主とアルバイト一人で回す小さなお店では、料理も仕入れも判断も店主に集中しています。代わりがいないまま倒れれば、営業と売上が止まり、家賃や返済、暮らしの支払いは残ります。

予約キャンセル、食中毒の申し出に続く今回は、店を支える本人の病気・けがへの備えです。「自分が動き続ければ何とかなる」だけの経営には、限界があります。

「まだ若い」「これまでは大丈夫」が備えを遅らせる

20代後半から40代前半。体力への自信と、せっかくつかんだ独立の機会を失いたくない気持ちから、睡眠や休日、受診を後回しにしていませんか。

働きすぎを続けても、必要なときだけ都合よく休めるとは限りません。包丁によるけがでも、腕や手が使えなければ調理は難しくなります。

開業時に必要なのは、頑張り抜く覚悟と同時に、自分も働けなくなると認め、休んでも再開できる条件を用意する覚悟です。「自分だけは関係ない」という思い込みを、事業計画に持ち込んではいけません。

まず「売上ゼロでも出ていくお金」を知る

開業資金を内装や設備で使い切らず、休業に備える現金を計画に含めましょう。営業中の店も、次の支払いを一度書き出してください。

  • 店舗家賃、借入返済、リース料、基本料金など
  • 休業しても必要になる人件費、税金・保険料など
  • 家族を含む最低限の生活費

店サポの提案としては、まず1か月、次に3か月休んだ場合の資金繰りを試算することです。例えば毎月の支払いが店と生活を合わせて60万円なら、2か月で120万円。これは計算例で、必要額は店ごとに違います。

決算上の利益と、使える現金は別です。仕入代金や納税用のお金まで「貯蓄」と数えず、支払日と残高で確認しましょう。

保険は「治療費・生活費・店の支払い」を分けて確認

「休業の保険に入っているから大丈夫」とは限りません。火災などによる店舗休業への補償と、店主本人が病気で働けない場合の補償は、対象が異なります。参考:飲食店の保険と補償範囲(損保ジャパン)

医療保険、所得補償・就業不能に備える保険、店舗の固定費に対応する補償について、代理店にこう聞いてください。

「私が病気で店を閉めた場合、何日目から、何に対して、いくら、いつまで出ますか。自宅療養でも対象ですか」

対象となる病気・けが、支払対象外の期間、既往症や心の不調の扱いも確認します。単なる疲労や自主的な休業まで必ず対象になるわけではありません。給付までの時間をつなぐ現金も必要です。参考:傷害・所得プラン(損保ジャパン)

また、市区町村の国民健康保険には、原則として会社員の健康保険のような傷病手当金がありません。国保組合の独自給付などは加入先へ確認を。治療費への給付と、休業中の収入への給付を混同しないことが大切です。参考:東京都・傷病手当金の案内

健診を「暇になったら」の予定にしない

自治体や加入する医療保険の健診を調べ、受診日を先に予定へ入れましょう。40~74歳は特定健診の対象ですが、40歳未満にも自治体の健診があります。例えば新宿区では、学校や勤務先などで受診機会のない16~39歳の区民も対象です。店舗所在地ではなく、住所地や加入先の条件を確認してください。参考:新宿区の健康診査

健診で再検査を勧められたら、そこで止めないこと。症状があるときは健診を待たず受診しましょう。健診に加え、睡眠と休日を確保できる営業時間・仕込み量へ見直すことも、店を続けるための仕事です。

信金・信用組合とは、元気なうちから付き合う

創業融資を受けたら終わりにせず、営業地域の信用金庫や信用組合に、普段から事業を知ってもらいましょう。参考:西京信用金庫の経営支援

売上入金や支払いの口座として使い、確定申告書・決算書、月々の売上と資金繰りを共有する。「店主が休む場合の運転資金も相談したい」と、平時から話しておきます。大切なのは口座の数より、数字と事情を説明できる相談先です。

ただし、付き合いがあれば追加融資が決まるわけではありません。休業期間や再開の見通し、返済能力などを確認されます。借りられるはずのお金を、手元の備えに数えてはいけません。

返済が難しくなりそうなら、引落しができなくなる前に既存の借入先へ連絡を。追加融資だけでなく、返済条件の見直しを相談できるか確認します。生活費と事業資金の使途も分けて説明してください。

~まとめ~「休めない店」を、休んでも戻れる店へ

予約客への連絡、仕入れの停止、休業のお知らせ、支払先への連絡。店主が動けないときに誰が行うか、連絡先と手順を一枚に残しましょう。再開日が決まらなければ、次に状況を知らせる日を伝えます。

お客様が離れる不安は、無理な営業を続ける理由になりがちです。それでも、体調を崩して長く戻れなくなるリスクから目をそらすことはできません。

休むための現金、保険の確認、健診の予約、金融機関の相談先。開業時から備え、営業しながら見直す。この四つも、店主の仕事です。

(構成・執筆:著者 / 画像生成・ファクトチェック:AI活用)