雨や猛暑、連休の谷間。飲食店の売上は、料理の良し悪しだけでは動かせない理由でも変動します。そこで売上の土台として考えたいのが、会社、学校、組合、ホテルなどから定期注文を受ける「法人・団体取引」です。

狙うのは、一度だけの大口注文ではありません。「毎週水曜日に弁当を30食」「研修日の昼食を毎月納品」「平日は近隣企業の社員食堂代わりになる」といった、次回の注文日と数量が読める取引です。

法人客は、意外と店の近くにいる

最初から大企業の本社を狙う必要はありません。まず、店から徒歩、自転車、短時間の配達で対応できる範囲を地図で確認します。

候補になるのは、一般企業の事務所、営業所、病院、介護施設、学校、学習塾、スポーツ団体、協会、組合、ホテル、工事現場、貸会議室などです。

各組織のWebサイトで「会議」「研修」「大会」「採用」「福利厚生」といった言葉を探すと、食事が必要になる場面を想像できます。

例えば、社員30人の会社なら、毎日の昼食をすべて受注できなくても、「月2回の全体会議の日に20食」なら現実的です。小さな定期注文でも、年間では20食×1,000円×月2回×12か月=48万円になります。

毎週90食の注文が10年以上続いた居酒屋

以前取材した60席の居酒屋では、ある組合から毎週90食の弁当注文を受けていました。その日は朝からアルバイトを増員し、通常営業とは別の売上をつくっていました。

この注文は10年以上続いたそうです。仮に弁当単価を1,000円とすると、月4回で36万円、年間では432万円です。

法人客の価値は、単に売上が増えることではありません。注文日と数量が分かるため、仕入れと人員を準備でき、食品廃棄も抑えやすくなります。一般客による同額の売上より、経営計画を立てやすい売上といえるでしょう。

営業資料はA4用紙1枚でよい

法人営業で大切なのは、豪華なパンフレットではありません。担当者が上司や経理担当へそのまま見せられる、分かりやすい提案書です。

A4用紙1枚に、次の項目をまとめます。

  • 弁当や法人向けメニューの写真
  • 税込価格と最低注文数
  • 注文締切とキャンセル期限
  • 配達できる曜日、時間、地域
  • アレルギー情報の確認方法
  • 請求書払いの可否と支払期限
  • インボイス登録番号
  • 店舗名、担当者、連絡先

「何でも対応します」では、担当者は判断できません。「平日10~30食、前日正午までの注文で、11時30分から12時に配達」のように条件を具体的にした方が契約につながります。

最初に売るのは年間契約ではなく「試す機会」

初回訪問で年間契約を求めると、相手の負担が大きくなります。まずは会議用弁当、歓迎会、研修、棚卸し、繁忙日の食事など、1回だけの注文を提案します。

試食を用意する場合も、無料で大量に配る必要はありません。担当者向けに2~3食を届け、味だけでなく、時間どおりに届くか、注文が簡単か、請求書が分かりやすいかまで体験してもらいます。

利用後は「毎週」だけにこだわらず、「毎月第1月曜日」「四半期ごとの研修日」「繁忙期だけ」など、相手が続けやすい頻度を提案します。

2026年は食事補助の提案機会が広がった

会社が従業員へ食事を提供する場合、従業員が食事価額の50%以上を負担し、会社負担額が一定範囲内なら、従業員の経済的利益を所得税上非課税とする扱いがあります。

会社負担額の上限は、2026年4月1日以後に提供する食事から、月額3,500円から7,500円へ引き上げられました。

この変更により、社員食堂を持たない会社へ「近隣の契約食堂」や「定期弁当」を提案する余地が広がっています。ただし、判定は消費税を除いた金額で行われるため、導入する会社には税理士や経理担当者への確認を促しましょう。

参考:国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げ」

まとめ~最初の目標は「近隣10社へ提案」

法人客獲得の第一歩は、難しい営業戦略ではありません。

店の周辺にある会社や団体を10件選び、相手の困り事を想像し、条件をまとめたA4用紙を持って訪問することです。

1件でも定期注文につながれば、天候や通行量に左右されにくい売上の柱が生まれます。法人契約とは、大口注文を取ることではなく、「来週も入る売上」を一つずつ増やす仕組みなのです。