以前こんな話が業界を賑わせていました。とあるLCC飛行機会社(ローコストキャリア)の一社が期間限定の割引料金を始めるというプレス発表を行ったのですが、成田空港から沖縄、札幌へ「片道802円」という格安料金設定を行い話題となりました。
実は安さそのものよりもこの802円という中途半端な金額にこそ話題が集まったのです。
タウン情報サイトが独自に調査した一杯のラーメンに払える金額の全国平均値それが「802円」だったのです。全国3,000人を超える方からの投票を集計したこの数字、全都道府県別でも金額が出ています。1位が沖縄の941円、2位が奈良の939円、3位島根900円。逆に一番低い額を入れた県は大分で629円となっています。
さて、ラーメン1杯に支出する限界値802円を評価するもう一つの要素として、ラーメンが海外で稼ぐ金額や別の業種との違いを考え併せる必要があります。たの業種も含めその価格決定要因と競争について検証することで飲食における客単価が今後について考えて見たいと思います。
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海を渡った日本のラーメンの実力やいかに
いまや国民食とも言えるラーメンですが海外に出店が盛んです。一つの例ですが一蘭のニューヨーク進出したときの様子を振り返ってみましょう。
2016年10月ニューヨークに出店を果たした同店の主力商品「とんこつラーメン」が当時18.90ドル=約2,000円で価格設定されました。ここにはニューヨークの消費税と約18%程度のチップが含まれていますが東京で同じものを当時790円で食べられたことを思うと相当な金額です。
お店は、マンハッタン島の東側、イーストリバーを渡ったあたりにあるブルックリンのブッシュウィックという場所にオープンしました。もともと倉庫や街工場が集まるエリアだったのですが最近はアートの街として急速に変化を遂げている場所のようです。東京で似た様な場所を考えて見たのですが、ブルーボトルコーヒーが1号店を出店した清澄白河が近いイメージではないかと思います。
さて、ランチに2,000円をという値段はどこから来ているのでしょうか。ニューヨークの地価が東京の2倍というのであればうなずけるところもありますがそうではありません。同じニューヨークの家賃でいってもマンハッタンの方が断然高いはずです。どうやら新しいものに感度が高い人たちが集まる街ということと、例えば日本人が初進出のハンバーガーに行列を作ってまで食べたがるようにニューヨークでも同じことが起こっていいます。日本もニューヨークも海外ブランドにつられて行列する姿は同じようです。ちなみに、シェイックシャックハンバーは日本でもニューヨークとほぼ同じ値段設定になっていますので一蘭の強気ぶりがうかがえます。
余談ですが、以前この店サポ内で冬場の鍋に関する考察を書いたことがありました。その中で、高い食材を使う鍋を食べる県の1位が沖縄で、1シーズンに一番鍋にお金を掛ける県の1位が島根でした。ラーメンのランキングでも1位と3位の上位を占めています。どうやら指向性は鍋と似ているようです。
本場アメリカに乗り込んだ日本ステーキの挑戦
2016年2月立ち食いステーキで名を馳せたペッパーフードサービスがニューヨークに1号店をオープンさせました。一蘭とは違いイーストビレッジに出店をしています。以前は学生が多くピッピーやピップホップの発祥の地で知られた街でしたが、日本人が経営するお店が多い街でもあります。
東京で言えば高田馬場的な街です。ここに日本のスタイルと同様の立食スタイルで、ランチを20ドルから提供するようです。こちらも日本のランチに比べると2倍近くするお値段です。現地メディアの反響では、ランチとしては割高だけどステーキを食べることを思うと割安という値段設定です。その価格についてもう一つの理由が日本進出のラーメン店の価格設定にあるようです。日本で790円のラーメンが2,000円で売れる街ならステーキランチが2,000円というのはいけるだろうというものです。ただ結果は残念ながらご存じの通りの結果でした。
本場ニューヨークでステーキをランチで食べる客に対し立って食べるスタイルはヒットしなかったようです。もちろん思い切った低価格ということでもなく客の心を捉えきれなかった結果に終わってます。
日本の外食の価格が決まる環境を考える
日本のランチを表す指標として必ず取り上げられるのが牛丼の価格です。一杯280円だの380円だの経済新聞が安売りを煽っているようにも映ります。この比較が成立するのは全国一律で提供される品であり、各地方都市に満遍なく店舗が行き渡っていることから比較対象になっているようです。
ここでは大根やニンジン、タマネギの価格にみる地方格差に加え最低賃金などの人件費格差があるにも拘わらず単一価格を設定できるチェーン店ならではの強みがうかがえます。人が作る料理でありながらカップラーメンさながらの規格商品はどこで食べても同じ味という安心感はありながらも万人うける味付けはいささか力強さに欠けます。
このように、原価、廃棄率など無駄を徹底して省いた商品に個人の飲食店が太刀打ちするのは至難の業です。牛丼が低価格競争ばかりしていることが飲食の価格設定全体の足を引っ張ることにつながっているような気さえします。人件費は上がり、食材のコストも上がっているのに販売価格だけが下がるという道理はもはや企業努力の域を超えているからです。
一方ファミリーレストランでは一部逆の流れもあります。低価格競争から脱して、いい食材で料理人がちゃん手をかけた美味しさを求めることでこれまでより客単価を上げるお店が出始めています。ブランドの安定感と、その店でこの金額を出せばこんなに美味しいものがたべられるかという外食が持つ本来の価値が見直され始めています。
客の回転率で価格破壊を試みた飲食店の斬新さ
俺のシーリーズで有名になった俺の株式会社。社長さんが有名ですが、客単価を価格ではなく「ひと席当たりの回転数で稼ぐ」という発想の転換をして利益を出したことでも知られています。
椅子を置かず立食することで、滞在時間を短くしてひとテーブル当たりの回転率を上げる。集客の目玉は原価率を6割近くまで引き上げた食材と一流の料理人が作る味付けの良さ。これがうけて連日行列が出来るまでになりました。一時のブームは去り普通のお店に近づいていますがその盛況ぶりはいまだ健在です。
飲食店の三大支出である人件費、家賃、材料費が自分の都合で変えられないのであれば残るファクターである回転率を変えるという発想は見事な発想です。
本来、開店、開業前に身の丈以上の家賃がかからない場所を選ぶということが本来重要な発想となります。同様に、料理を作るキャパシティーや従業員の数に見合わない面積を借りないというのは飲食店が失敗をしない鉄則ということです。
~まとめ~
世の中には談合やカルテルのたぐいは山ほどあります。業界内で多くの同業者が生き残って行く知恵として古くから残る商習慣でもあります。なぜか飲食業界だけが値下げ競争の消耗戦をやっているような気がしてなりません。ここには、コンビニエンスストアの存在が無視できません。定価が守られている製品を並べる以外に安く大量に作ったお弁当類が飲食業界の消耗戦を助長しています。ここにも牛丼チェーンと同じロジックが働いています。
地方都市でもこのところ地域色や地域の経済性を反映した飲食店が姿を消し、効率のみで安売りをするナショナルチェーンが台頭しています。この図式は日本の食文化を日々壊しているように思えてなりません。こういった飲食店やコンビニを利用する消費者も見た目と価格に惑わされずに適正価格で頑張っている身近な飲食店に足を向けることを提案します。コロナによる自粛がとけるまでの時間皆さん一人一人がよくお考えいただきたいと思います。