フランチャイズ契約(以下FC)を結び飲食店を始める方に何度かお目にかかったことがあります。とはいえ最初はFCでの開業だとは一言もお話にならない方ばかりです。これはという物件が出てくると急にFCで開業するとの説明が始まります。
お話を伺うと、FC本部から人が来て、その場所で開業して良いかどうかの判断を仰ぐのだといいます。以前ですとFC本部が物件を選定し、そこで飲食店を希望するフランチャイジー(FC契約者)を募っていたのですがFC本部のあり方とはずいぶん変わったものだと思った次第です。
従来型のFC本部をはじめ、今では数多くの業態、システムが存在します。一概にどのFCが良い悪いというものでもなく、ご自身の考え方にあったFCが一番だと思います。
今回は、FCで飲食店を始めるメリット、デメリット、またFC契約を解約する際の注意点など実際にお見掛けした実例をもとに検証してみたいと思います。
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FCで飲食店を開業するメリットは3つ
大きく3つのメリットがあります。
1.のれんの知名度で垂直立上
名の通ったFCであれば店舗をオープンするだけで人を集めることが出来ます。特別に宣伝は不要です。大手になればなるほどFC本部がTV、ラジオ、雑誌、WEBなどあらゆるメディアを使って強力な宣伝を繰り広げてくれます。
結果FCは人目につく場所で店さえ開いていれば売り上げは保証されます。その分ロイヤルティー=のれん使用料は高くなります。売上の数%から数十%まで様々です。
個人で飲食店を始める場合、リピーターと呼ばれる固定客が定着するまでは結構大変な期間です。運転資金不足など下手をすれば固定客がつく前に尽きてしまえば閉店となりかねません。FCの良いところは、この期間が無いのが最大のメリットです。
2.食材の提供でロス率を極限まで削減
業態によっては材料を仕入れて店内で調理する飲食店もあれば、センターキッチンで予めカットされた野菜や肉などを使用するFCも数多くあります。概して半完成品をFCに卸している本部の方が多いのではないでしょうか。
この意図は二つあります。本部がロイヤルティー以外に加工済み食材をFCに販売することで利益を出す仕組みを作っています。大抵これを買うことがFC契約の条件にもなっています。ただ、ロイヤルティーが高いFCで高額の食材をFCに押し付けているようなところはなく。逆にロイヤルティーが低く抑えられている代わりに食材の利益が厚く載っているところはあるようです。
もう一つの意図は、廃棄する部分を減らしロス率の低減と調理時間を短縮する狙いがあります。こうすることで、無駄を抑えお客様の回転数を上げることが可能となります。個人ではなかなか太刀打ちできないノウハウの一つです。
3.手厚いサポートで個人での開業も安心
多くのFCでは、開業前の研修に時間をかけています。長いところで3ヶ月間というFCもあります。また、開店時のビラ配りやホールのヘルプ要員なども派遣してくれます。なにより、売り上げや宣伝に関して目標値の設定、目標値を達成する為のコツなども事細かに指導してくれます。個人経営の飲食店で売上が上がらないからとご主人が悶々と悩むのと違い、強力なサポーターが存在します。だからFC加盟店は閉店が少ないのです。
FC店舗を居抜きで辞めるて売却を考えた場合
過去にFC店の閉店をお手伝いしたことがあります。個人の飲食店を居抜きでどなたかにお譲りするのとはずいぶんと勝手が違うと感じました。
立ち食い蕎麦FCで撤退の場合
立ち食い蕎麦店をFCで経営されていたのですが、より駅に近く人通りの多い場所へ引っ越されるということでした。ご要望は居抜きでどなたか引き継いでもらえないだろうかというものでしたが、話が進むにつれいろいろな制限が出てきました。
まず、店内の随所に使われているFCのコーポレートカラーがついたものは全て撤去。例えば、壁のパネルやライン、カウンターの天板、イスの座面など主要な部分に使われています。つまり、これらは全て無くなるということになりました。
さらに、厨房内にある茹で麺機、フライヤーなども撤去するというのです。理由を伺ったところ、FC本部がメーカーに特注で作らせているものだそうで、ノウハウが詰まっているだけに人に売ることは出来ないという説明でした。
まだあります。入口上部の看板、コショウや醤油などのカスター(容器)、お店のロゴや店名の入っているものは一切置いていかないとの説明でした。
結局主要なものでは、空調とトイレぐらいがまともに残るだけで後のほとんどは何らかの解体が入ります。最終的にはスケルトンに戻す方がお客様が付きやすいのではないかという結論になり居抜きでの第三者に引継ぐことを断念しました。
古参居酒屋FCで撤退の場合
駅前のロータリーに面した場所で26年もの長きに渡りFCで居酒屋を経営して来られました。こちらは日本のFCの草分け的なお店です。
これまでご夫婦でお店をやってこられたのですが、寄る年波には勝てず閉店を決断されました。やはり居抜きでどなたかに引き継ぎたいとのご要望だったのですが、ここからFCとの意外なデメリットが露見してきます。
そもそもFC本部に払うロイヤルティーは契約期間が設けられているのが一般的です。賃貸借契約同様この契約を解消しようとすれば何か月か前に申入れをする必要があります。早速FC契約の解約を申し入れたのですが、次の買い手がすぐに見つからずに苦戦となりました。
FC契約終了まであと半月というところで次の契約者が見つかり無事にFC契約の最終日を迎えることが出来ました。とはいえ店舗の引き渡しまでにまだ1ヶ月程時間があります。店を開ければお客様がいらして下さるというので、FC本部に期間延長を申し込まれたそうです。
ところが、ロイヤルティー契約の更新をしないと営業は認めないという厳しい内容の返事が返ってきたそうです。当のご主人も悩んだ挙句、看板、のれんなどFCの名前やロゴの入ったものをすべて撤去し、数十日間営業を続けました。固定客とは有り難いもので、一切の表示がないにも拘わらずいつも通りの人数が来店されたとの事でした。
~まとめ~
最近新手のFCが登場しています。FCとして名前だけを使わせることで月々定額のロイヤルティーを徴収しています。
看板のデザインや店名も自由、FC本部の屋号の前後に文字を加えることも自由、グランドメニューはあるものの基本自由、仕入れや厨房機器なども自由というものです。これまでのFCの様に調理指導や営業指導といったことは一切行わないという徹底ぶりです。
それでFCと言えるのかどうか疑問ですが、現在数を伸ばしています。ロイヤルティーを低く抑えた分、FC最大のメリットとの一つ、名前が通っているという部分だけに特化した形態です。FCも新時代に突入と言った事例です。
FCが撤退したあとの飲食店舗不動産にはある特徴があります。
長く続いたお店の後ほど、賃料の値上がり率が高くなる傾向にあります。それだけ賃料を安く抑えてきたのだということがうかがえます。
逆に、敷金などが20ヶ月にも及ぶ賃貸条件も残っており、新条件の設定に大家さんと何度も打ち合わせをすることもあります。
いずれにせよ、今どきのFC本部は、自分たちで物件を見つけるよりもフランチャイジーに自分の眼で選ばせるのがトレンドのようです。