飲食店の開業支援をするセミナーが至る所で開催されています。積極的にご利用なさるのはいいことだと思います。敢えて申し上げるなら1社のお話だけを聞くのではなく複数のセミナーにお出かけされることをお薦めします。
なぜなら、主催する会社の主力商品によって力の入る部分(詳しく解説する部分)とサラッと流す部分(あまり聞かせたくない部分やあまり詳しく知らない部分)とにハッキリ違いが出てくるからです。当然セミナーによって解釈の異なる部分も多々あります。是非聞き比べてご自身の事情にあった内容を持ち帰るようにしてください。
さて、今回取り上げる商圏調査ですが、セミナーの時間を持たせるためにコンテンツの一つとして取り上げる場合が多いようです。初めて飲食店を出店される方にとって聞きようによっては勘違いのもととなります。そこで、商圏調査のトリックの見破り方、本当の活用方法についてお話をさせて頂きます。
Contents
商圏調査とはなにかを知る
なにも考えずに飲食店の出店立地をお決めになる方はまずいないと思います。素人考えでもいくつか思い当たるポイントがあります。例えば、店先を行き来する人の数、周辺に住んでいる住民、周辺に入居する会社の数などですが、一番気になる競合店の情報などもそれにあたります。
では商圏調査とはどのように行われているのでしょうか。大きく二つに分かれます。
一つは、大手の飲食チェーンやコンビニエンスストアが会社独自のノウハウで行う調査です。残念ながら非公開で行われているためその詳細は、関係者の口述によるものしか情報はありません。
もう一つは、飲食店に関する商圏を専門に調査をする会社が出すデータです。また、商圏調査ソフトなども発売されており、月額契約などを結ぶことで常に最新のデータを入手することが可能です。
次に具体例を見ながら解説します。
1.半径500メートルのターゲット
初めて飲食店を出店される場合に、
- どのようなメニュー
- 客単価いくら位か
- 誰に対して売りたいのか
この3つが決まっていないとこの半径500メートルという数字はなんの意味も持ちません。
飲食店を始めたいと考えた時に開業する立地を決めます。駅前立地、オフィス立地、住宅立地、キャンパス立地、もしくはそれらの複合立地で、ターゲット客層がどの程度いるのか調べます。この時点で事業計画が固まっている必要があります。
仮に、開業したい場所がオフィス立地だとして半径500メートルに勤める就業人口を調べればよいことになります。そもそもなぜ500メートルかと言えば、徒歩80m=1分(不動産の物件表示に使われる基準)これで言えば500メートルは6分少々の距離となります。
ランチなら雨でも我慢できる比較的来やすい距離です。夜ともなればちょっと一杯の場所です。つまりリピーターになって頂きやすい方の数がどれだけいるのかが分かる指標とご理解下さい。
同様に、住宅街なら世帯数であり世帯当たりの平均構成人数、平均年齢、男女比率が鍵となると考えがちですが、ここからが重要です。
仮に周辺の企業や住んでいる人の人口構成や世帯数が分かったところでどのように役立てるかお分かりですか?実はここに商圏調査のトリックが存在するのです。
商圏調査が重要だと力説する方は次のようにお話になります。「周辺には大企業が何社もあり、その会社の平均年収はいくらだから客単価の設定は少々高目でも十分やっていけます」
具体例をあげると、中目黒と池尻大橋の間のエリアは、単身世帯が多く男性よりも女性の比率が高いという結果が出ます。更に、平均年齢が30歳を少し超える程度と分かるため、単身のOLが数多く住む街という分析となります。「女性向けのメニューを増やす方がお店は繁盛しますよ」という結論を導き出すのです。
頭から否定するつもりはありません。周辺にターゲットとなるお客様が存在することは重要な要素の一つですが、それだけで飲食店が繁盛するのかと言えばそうではありません。
2.競合店調査でなにがわかる?
半径500メートルに存在する競合店調査も商圏調査の一部です。ストレートに言えば、同じ商品を出す飲食店が何件あるのかを知る為です。くわえて業種は違っても同じような客単価の飲食店が何件あるのかもわかります。一見まともな話に聞こえます。実はここも注意が必要です。出したい料理によって環境の解釈が異なるからです。
専門性が高く、従来の料理と差別化が図れるものを扱う飲食店の場合はあまり気にする必要はありません。例えるなら、豚骨ラーメンに対して、家系ラーメンや醤油ラーメンだったり、二郎系と呼ばれるラーメンだったり、同じラーメンでも差別化が出来る場合は同じ系列のお店がなければ、周辺にラーメン店が数件あろうが関係ありません。
そのいい例が、早稲田大学がある高田馬場や慶応大学がある日吉などです。ジャンルの違うラーメン店が数多く軒を連ねることで、わざわざ電車に乗ってでも訪れる人が現れるほどにまでなっています。
ここで思い出されるのは、有名ラーメン店ののれん分けの話です。「一駅に一店縛り」といって同じ系列店で客の取り合いをしないようにとの不文律があったそうです。
また、ネパールなど海外から移住して来られ方々がカレー店を出店する際も同じような不文律が今でも存在します。
これに対し、差別化が難しい業種ならば、競合店のメニューを分析することで、原価率が高く看板メニューとなる料理の創作が必須であったり、同じ料理でも食材の産地にこだわったメニュー作りを考えるなど差別化をいかに行うかという工夫が求められます。
つまり、商圏調査とはこれら「差別化のヒント」として捉えるべきなのです。
3.通行量調査に騙されるな!
大手コンビニチェーンやコーヒーショップ、そば、牛丼などのナショナルチェーンは必ずといていいほどこの通行量調査を行います。曜日、時間帯などに分けて徹底調査です。彼らからすれば、通行量から利用する人の数字が経験的に分かっているだけに売り上げの予測はかなり正確に出てきます。
ところが、初めて飲食店を開店される方にとって通行量はどれほどの意味を持つのでしょうか。看板、店のファサートが目にふれる露出度、店の存在感など視認性ということでは間違いなくアドバンテージがあります。
一方で、その分賃料が高いことも事実です。ここで勘違いを引き起こすのが、人通りが多いから売り上げは見込めるという甘い見通しです。
この通行量調査結果を上手く使えるのは、看板のブランド力で売上実績を持っている企業だけなのです。
だからと言って、人に説明できないような場所でもいいのかという訳ではありません。1.5等地と言われている、通行料の多い通りから脇に入るような立地で、通りからのぞき込めば確認できる場所に構えるのが一番の得策です。
なぜなら、「飲食店立地は人通りが全てだ」という神話めいた話のお陰で、人通りの少ない脇に入った場所だと表通りに比べ30%~50%も安い家賃で借りることが可能だからです。
その差額で、食材のグレードをアップしたり広告宣伝にお金を掛ける方が、固定客がついた後シッカリ利益が生まれ長くお店を続けることが可能だと断言できます。
~まとめ~
数々の飲食店ブランドを傘下に収めて拡大する牛丼チェーン店があります。同じような業態のライバル会社が、人海戦術で商圏調査を1週間かけてやっていた時代に、住所と店舗候補の物件面積を入力すると競合他社との立地関係や人の流れなどから売上高を計算するソフトを造り出していました。10年以上も前のことですから、その結論の速さに驚いたものです。
これに対し、屋号も看板も味も全て一からスタートする飲食店に商圏調査がどれほど役に立つかは正直よくわかりません。少なくとも商圏調査とは多店舗展開をする経験則から生まれてきた理論であると説明しました。
いくつかの数字的根拠が手軽にあたかも説得力のある数字のように扱われるようになり今に至るのではないでしょうか。
もうお分かりだと思いますが、初めての飲食店を出店する際には参考にしたとしても拠りどころとするのは大きなリスクであると考えて間違いありません。